料理をテーマにした映画は数多くありますが、『ジュリー&ジュリア』は単なるグルメ映画ではありません。
1950年代にアメリカへフランス料理を広めた料理研究家ジュリア・チャイルドと、そのレシピ本に人生を救われたひとりの女性ジュリー・パウエル。時代の異なる二人の実話を交差させながら、「好き」という情熱が人生をどう変えていくのかを優しく描いた作品です。
主演のメリル・ストリープは実在のジュリア・チャイルドを驚くほど自然に演じ、第67回ゴールデングローブ賞主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞しました。エイミー・アダムスとの対照的な演技も本作の大きな魅力となっています。
派手な事件や大きなドラマが起こる作品ではありません。しかし、一皿の料理、一つの記事、一歩ずつ積み重ねる努力が人の人生を変えていく。その温かさに満ちた一本です。
あらすじ(ネタバレなし)
1950年代、外交官である夫ポールの赴任に伴いフランス・パリへ移り住んだジュリア・チャイルドは、新しい人生を充実させたいという思いから料理学校ル・コルドン・ブルーへ通い始めます。当時は女性が本格的に料理を学ぶことが珍しい時代でしたが、持ち前の明るさと努力で腕を磨き、やがてシモーヌ・ベック、ルイーゼット・ベルトルとともにアメリカ人向けの本格的なフランス料理本の執筆を始めます。
出版までには何年もの歳月や出版社からの拒絶、共同執筆者との調整、夫が政治的な疑いをかけられるなど数々の困難が待ち受けます。それでもジュリアは料理への情熱を失うことなく、自分が信じる一冊を完成させようと歩み続けます。
一方、2002年のニューヨーク。ジュリー・パウエルは世界貿易センター跡地再開発に関する問い合わせ窓口で働き、単調な毎日に息苦しさを感じていました。
そんなある日、自分の人生を変えたいと考えた彼女は、ジュリア・チャイルドの料理本に掲載されたすべてのレシピを365日で作り、その挑戦をブログに綴るという大胆な計画を思いつきます。
夫エリックの応援を受けながら始めた挑戦は、やがて多くの読者を集める人気ブログへと成長していきます。しかし成功とともに、ブログ中心になってしまう生活や夫婦関係とのすれ違いなど、新たな問題も生まれていきます。
時代を超えて二人の女性が料理を通して人生と向き合う姿が、美味しそうな料理とともに温かく描かれていきます。
感想
※ここからは作品の核心に触れる内容を含みます。
『ジュリー&ジュリア』は、大事件が起こる映画ではありません。
犯罪も戦争も壮大な冒険もありません。しかし最後まで見終えたとき、不思議なくらい幸福感が残る作品です。
その理由は、「好き」という気持ちが持つ力を、とても丁寧に描いているからだと思います。
ジュリア・チャイルドは料理が好きでした。ただ好きだから学び、失敗しても笑い、何年かかっても本を書き続けました。
一方のジュリーは、仕事にやりがいを感じられず、自分の存在価値さえ見失いかけていました。しかしジュリアの本に出会い、「一年で全レシピを作る」という無謀とも思える挑戦を始めます。
最初は誰にも読まれていなかったブログが、少しずつ人の心を動かしていく過程は、現代ではSNSやブログを書いた経験がある人なら特に共感できるでしょう。
この映画を観ていると、「続けること」の価値を何度も考えさせられます。
毎日料理を作ることも、毎日文章を書くことも、誰かに評価される保証はありません。それでも積み重ねた日々は必ず自分を変えていく。その事実を二人の人生が証明しています。
特に印象深いのは、ジュリーがブログの成功に夢中になりすぎて、夫エリックとの関係がおろそかになってしまう場面です。
夢中になることは素晴らしい反面、大切な人への感謝を忘れてしまえば、本来の幸せから遠ざかってしまうこともある。本作は成功だけを美化せず、その影の部分まで誠実に描いています。
そして終盤、ジュリーは新聞記者から「ジュリアはあなたのブログに否定的だった」と聞かされます。
普通なら憧れの存在に否定されたことに絶望してしまいそうですが、それでも彼女の尊敬は変わりません。
「自分の人生を変えてくれた人」であることに違いはないからです。
誰かに認めてもらうためではなく、自分が心から好きだから続ける。その姿勢こそ、この映画が最も伝えたかったことなのかもしれません。
また、ジュリア・チャイルドという人物の底抜けに明るい性格も、この作品を特別なものにしています。
失敗しても豪快に笑い、料理を心から楽しみ、人を励まし続ける姿は見ているだけで元気になります。
一方でジュリーも、誰に命令されたわけでもなく一年間という途方もない挑戦をやり遂げます。その行動力にも心を動かされました。
「事実は小説より奇なり」という言葉がありますが、本作はまさにそれを体現した実話です。
コメディ要素もありながら全体がしっかりと引き締まっているのは、メリル・ストリープやエイミー・アダムス、スタンリー・トゥッチといった名優たちの存在感があるからでしょう。
派手な演出や劇的な展開に頼ることなく、人の情熱だけでここまで心を動かせる映画は決して多くありません。
観終わると料理がしたくなるだけではなく、「何か新しいことを始めてみよう」と思わせてくれる、とても魅力的な一本でした。
演技
メリル・ストリープ(ジュリア・チャイルド)
実在のジュリア・チャイルドの独特な話し方や立ち居振る舞いを完璧に再現しています。しかし単なる物まねではなく、彼女の人生を丸ごと愛しているような演技が素晴らしく、スクリーンいっぱいに幸福感を広げています。
エイミー・アダムス(ジュリー・パウエル)
現代を生きる等身大の女性を非常に自然体で演じています。喜びも嫉妬も焦りも決して大げさではなく、多くの人が自分を重ねられる主人公になっています。
スタンリー・トゥッチ(ポール・チャイルド)
理想的なパートナー像と言ってもいいほど魅力的でした。
ジュリアを心から尊敬し、常に応援し続ける姿は、この映画の温かさを支える大きな存在です。夫婦の愛情が押し付けがましくなく描かれている点も本作の魅力でした。
この映画がおすすめなひと
- 料理や食べることが好きな方
- ブログやSNS、創作活動を続けている方
- 実話をもとにしたヒューマンドラマが好きな方
- 前向きな気持ちになれる映画を探している方
- メリル・ストリープやエイミー・アダムスの演技を堪能したい方
評価
※評価は執筆時点のものです。
Filmarks:★★★★☆ 3.7/5.0
IMDb:★★★★★★★☆☆☆ 7.0/10
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