Cinematelier ─ 映画のアトリエ

名作からコア作品まで、余韻を大切に綴る映画ノート

『はじまりのうた(Begin Again)』ー傷ついた大人たちの再生を描く映画

あらすじ(ネタバレなし)

音楽プロデューサーとして挫折したダンと、失恋をきっかけに心が折れかけていたシンガーソングライターのグレタ。
ニューヨークの小さなライブバーで偶然出会った二人は、街そのものをスタジオにしてアルバム制作を始めます。
音楽を通して、自分の人生ともう一度向き合うことになる大人たちの物語です。

 

主な登場人物

グレタ(演:キーラ・ナイトレイ)

失恋をきっかけに傷ついたシンガー。飾らない歌声とまっすぐな感性を持つ。

ダン(演:マーク・ラファロ)

かつては成功していた音楽プロデューサー。仕事も家庭も揺らいでいる。

デイヴ(演:  アダム・レヴィーン)

グレタの元恋人で売れっ子ミュージシャン。成功と葛藤の間にいる人物。

バイオレット(演: ヘイリー・スタインフェルド)

ダンの娘。思春期特有の距離感を抱えながらも、父親をどこかで気にかけている存在です。
アルバム制作に関わることで、ダンとの関係にも少しずつ変化が生まれます。

スティーヴ(演:ジェームズ・コーデン)

グレタの友人で、ニューヨークで彼女を支える存在。
失恋で傷ついたグレタに寄り添い、彼女が新しい一歩を踏み出すきっかけを与える重要な人物です。
グレタの素の魅力を理解している存在として、物語の土台を支えています。

 

ミリアム(演: キャサリン・キーナー)

ダンとは別居中。新しい生活を歩み始めているものの、二人の間には単純に割り切れない空気が残っているようにも感じられます。
疎ましさや距離感の裏側に、かつての時間や感情が完全には消えていないことがにじみ出ていて、ダンの再生をより複雑なものにしています。

 

物語の流れ(起承転結)

起|それぞれの挫折

音楽プロデューサーとしての地位を失いかけているダンと、恋人の成功と裏切りに傷ついたグレタ。
それぞれが人生の底にいる時に出会います。

承|音楽がつなぐ関係

偶然のひらめきから始まるアルバム制作。
スタジオを飛び出し、ニューヨークの街そのものを舞台に音楽を録るという試みが二人を結びつけます。

転|成功と心の距離

アルバムは形になっていく一方で、仕事と感情の境界が揺れ始めます。
それぞれが向き合うべき過去や未練が浮かび上がります。

結|それぞれの“始め直し”

大きな勝利ではなく、自分の足で立ち直る選択。
音楽とともに、それぞれが新しい一歩を踏み出します。

 

どんな人におすすめ?

音楽が好きな人、人生のやり直しの物語に惹かれる人、
そして派手さよりも余韻を大切にしたい人におすすめです。
忙しい日々の中で、少し立ち止まりたいときやそっと背中を押してもらいたい時に観てほしい作品です。

 

感想

※ここからは作品の核心に触れる内容を含みます。

 

『はじまりのうた』が心に残る理由のひとつは、登場人物それぞれが何かしらのしがらみや傷を抱えていることにあると思います。
だからこそ、誰か一人ではなく、どの人物にも感情移入できる物語になっています。

グレタとデイヴは、本来は共作者であり、同じ夢を追う同志だったはずです。
けれどそれは、まだ売れる前だからこそ成立していた関係だったのかもしれません。
スターとなったデイヴは、成功と引き換えに少しずつ本質を露わにしていきます。
浮気という裏切りだけでなく、「ヒットするから」「観客に受けるから」と楽曲をポップス寄りに変えてしまう姿勢もまた、グレタとは決定的に異なる価値観を示していました。

ライブの場面で、ほんの少しの期待を抱いていたグレタの前で、デイヴが再びポップスバージョンで歌い出す瞬間。
あそこで二人は完全に袂を分かったのだと感じました。
その対比は、ラストでグレタが選んだアルバムの販売方法にも表れているように思えます。
売れることを目的とするデイヴと、音楽そのものを大切にするグレタ。
二人は同じ道を歩いていたようで、最初から別の星のもとにいたのかもしれません。

そして、失意の中にいたグレタを救ったのは音楽だけではありません。
良き友人として寄り添うスティーヴの存在は、デイヴとは対極にある誠実さを体現していました。

一方で、ダンとミリアム、そしてバイオレットの家族もまた、すでにばらばらになりかけていました。
けれどグレタや仲間、そして音楽を通して、少しずつ傷や葛藤が癒えていくように感じられます。

特に私が大好きなのは、バイオレットに演奏させる場面です。
それまでダンもミリアムも、彼女の才能に気づいていなかった、あるいはきちんと向き合えていなかったのかもしれません。
けれど屋上での演奏シーンでは、バイオレットが確かに“自分の音”を鳴らしている。
あの瞬間、父娘の関係もまた静かに再生していくようで、本当に胸を打たれます。

そう考えると、あのバーでグレタとダンが引き寄せられるように出会ったのは、偶然ではなく必然だったのかもしれません。
しかもその出会いが双方の視点から描かれる構成は、本当に見事でした。

ダンが素晴らしい音楽を聴いたとき、頭の中で一通りの楽器が鳴り始める演出も印象的です。
音楽が「聴くもの」から「見えるもの」へと変わるあの瞬間は、この映画の創造性を象徴しているようでした。

マーク・ラファロやキーラ・ナイトレイの演技はもちろん素晴らしいですが、ジョン・カーニー監督の演出と音楽性は、ほかの何にも代えがたい魅力を持っています。

この作品は映画ファンの間ではよく知られた人気作かもしれません。
それでも、私にとっては何度も観返したくなる一本です。

きっと私がこの映画を何度も観てしまうのは、音楽はもちろんのこと「人が立ち直る瞬間」を信じたいからなのだと思います。

 

批評サイトの評価

  • Filmarks:★★★★☆(4.0 / 5.0)

  • IMDb:7.4 / 10

※評価は執筆時点のものです。

視聴情報(サブスクリプション)

配信状況は変わる場合があります
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・FOD
・Lemino

・Amazon Prime Video(レンタル)

 

 

 

関連作品

 

ジョン・カーニー監督は、本作以外にも音楽と人生を深く結びつけた作品を手がけています。

音楽が人生の再生を導く物語として描かれたもうひとつの作品:

Happy Sadという生き方 ―『シング・ストリート(Sing Street)』

 

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