2018年の映画『search/サーチ』は、パソコンやスマートフォンの画面だけで物語を進める“スクリーンライフ”という手法で、大きな驚きを与えた作品でした。
その世界観を受け継ぎながら、登場人物と物語を一新して生まれたのが本作『search/#サーチ2(Missing)』(2023年)です。
本作でも、観客はパソコンの画面、スマートフォン、監視カメラ、SNS、検索履歴といったデジタル機器の視点から事件を追っていきます。
しかし単なる形式的な面白さだけではなく、物語の中心にあるのは親子の関係です。
母が突然失踪し、それをネットの力で追いかける娘。
そして調べれば調べるほど、知らなかった家族の過去が浮かび上がってきます。
スクリーンの中にあるのは情報だけではありません。
そこには、人間関係の断片や、隠されていた感情までもが映し出されているのです。
あらすじ(ネタバレなし)
主人公は、女子高生のジューン・アレン。
彼女はシングルマザーの母グレイスと二人で暮らしていますが、母の細かな干渉に少しうんざりしており、最近はどこか距離を感じる関係になっていました。
そんな中、グレイスは恋人ケヴィンと共にコロンビア旅行へ出かけます。
しかし、帰国するはずの日になっても二人は空港に現れません。
ホテルに問い合わせても、旅行の記録には不自然な点ばかり。
やがてジューンは、母が本当にコロンビアに到着していたのかさえ疑問に思い始めます。
警察やFBIの捜査が思うように進まないなか、ジューンは自らパソコンを使って調査を始めます。
メール、SNS、検索履歴、監視カメラといった、あらゆるデジタルの痕跡をたどりながら、母の行方を追っていくのです。
しかし調べれば調べるほど、母や恋人ケヴィンの過去には思いがけない秘密が隠されていることが明らかになっていきます。
ネットの中に残された断片的な情報が、ひとつの真実へとつながるとき――
この事件は、想像もしなかった方向へと動き出します。
感想・考察
※ここからは作品の核心に触れる内容を含みます。
本作『search/#サーチ2』は、前作『search/サーチ』で提示された“スクリーンライフ映画”という手法の面白さをそのままに、キャストやストーリーを一新して作られた作品です。続編でありながら物語は独立しており、同じ世界観の中で新しい事件を描いた作品として成立しています。その意味でも、前作の魅力を受け継ぎながら、また違った緊張感を持ったサスペンスとして非常に見応えがありました。
まず印象的なのは、デジタル機器の使い方の巧みさです。SNS、検索エンジン、メール、動画サイト、クラウドサービスなど、私たちが日常的に使っているツールが、そのまま事件を追うための手がかりになっていきます。ジューンはパソコンの画面を通して母グレイスの行動の痕跡を一つずつたどっていきますが、その過程はまるで観客自身が一緒に捜査しているかのような感覚を生み出します。カーソルの動きや検索履歴、通知の表示といった細かな演出までが伏線として機能しており、画面の中の小さな情報がやがて大きな真実へとつながっていく構造は、本作の大きな魅力の一つでしょう。
そして今回は主人公がデジタルネイティブ世代の女子高生であることも、この手法にとてもよく合っていました。ジューンはSNSや各種アプリ、オンラインサービスを迷いなく使いこなし、次々と手がかりを見つけていきます。もちろん、あまりにも手際が良すぎると感じる場面もあり、「そこまでできるのか」と思う部分がないわけではありません。しかし、スマートフォンやPCを日常的に使いこなす世代の主人公だからこそ、画面を通した捜査という設定にもどこか説得力があり、前作とはまた違ったリアリティを感じさせるものになっていました。
しかしこの映画が単なるデジタル・サスペンスにとどまらない理由は、その中心に親子の関係の物語があるからでしょう。
ジューンと母グレイスは決して仲が悪いわけではありませんが、思春期の娘と親という関係の中で、どこか距離が生まれていました。ジューンは母の細かな干渉を煩わしく感じています。しかし母が突然失踪したことで、ジューンは初めて母の存在の大きさと向き合うことになります。
そして物語が進むにつれて明らかになるのが、グレイスが娘を守るために隠していた過去です。かつて夫ジェームズは薬物依存やDVの問題を抱えた人物であり、グレイスは娘を守るために過去を消し、新しい人生を築いていました。ジューンには父が病気で亡くなったと伝えていましたが、それもまた娘を守るための嘘だったのです。
その象徴とも言えるのが、幼いジューンが映ったホームビデオの存在です。物語の序盤では、父ジェームズが鼻血を出している映像が映り、病気のように見えます。しかし後に、それが薬物の影響によるものであり、グレイスがジューンの記憶を守るために編集していた映像だったことが明らかになります。娘を守るための嘘ではあったものの、その隠された過去がやがて大きな事件へとつながっていく構造は、とても皮肉でありながらも、どこか切ないものでもありました。
そして今回の物語で特に衝撃的なのは、主人公たちを追い詰める存在が父ジェームズその人だったという点です。グレイスはジェームズの執着から逃れるために過去を消し、名前まで変えて新しい人生を始めました。しかしジェームズは長い年月を経てもなお二人を追い続け、ケヴィンを雇ってグレイスに近づかせ、さらに別の女性を雇って誘拐を偽装するなど、周到な計画を立てていました。さらにジューンのパソコンに侵入し、彼女の行動を監視していたことまで明らかになります。テクノロジーを使って事件を追うはずの物語が、同時にテクノロジーによって監視されていたという構造は、とても現代的であり、どこか不気味さも感じさせるものでした。
一方で、この事件の中で静かに重要な役割を果たしていたのが、グレイスの友人であり弁護士でもあるヘザーの存在です。物語の途中では、ケヴィンとの暗号化された通信が見つかったことで、ジューンは一時ヘザーを疑うことになります。しかし実際には、彼女はグレイスの過去を知り、母娘を守ろうとしていた人物でした。グレイスが名前を変えて生きていた事情を理解し、その秘密を守ろうとしていた数少ない存在でもあったのです。
だからこそ、彼女が殺されてしまう展開は非常にやるせないものでもありました。グレイスを守ろうとしていた人物が命を落とすという出来事は、この事件の残酷さをより強く感じさせます。真実を知る人間が消されていくことで、物語の不穏さもさらに増していく構造になっていました。
物語の終盤で、ジューンが監禁された状況からSiriを使って911に通報する場面は、この映画のアイデアが最も巧みに生かされた瞬間だったと思います。監視や犯罪にも使われていたデジタル技術が、最後には人を救う手段になる。テクノロジーの持つ二面性が、このワンシーンに凝縮されているように感じられました。
また、この物語の中で印象的だったのが、コロンビアでジューンの調査を手伝うことになるギグワーカーのハビの存在です。ジューンは遠く離れた場所から彼に依頼を出し、ホテルや街を調べてもらうことになりますが、その関係は次第に単なる依頼主と仕事相手という枠を超えていきます。最初は報酬のために動いていたハビも、やがてジューンの状況を理解し、彼女を助けようとする姿を見せるようになります。
ハビ自身もまた、息子との関係がうまくいっていない父親です。そのため、母を探そうと必死になるジューンの姿に、どこか自分の家族を重ねていたのかもしれません。事件のあと、彼が息子と再会する場面が描かれていることも含めて、本作が描いているのは単なるサスペンスだけではなく、壊れかけた人間関係の再生でもあるのだと感じました。
また本作では、前作とのつながりを感じさせるメタ的な仕掛けも用意されています。物語の冒頭でジューンが観ている配信ドラマは、実は前作『search/サーチ』で描かれた事件を題材にした作品なのです。そして物語のラストでは、今度はジューンとグレイスの事件も同様にドラマ『Unfiction』として映像化されていることが示されます。
現実の社会でも、大きな事件や世間の関心を集めた出来事は、やがてドキュメンタリーやドラマとして再構成されることがあります。本作はそうした構造を、架空の事件の中に“劇中劇”として取り込んでいます。前作の事件がドラマになり、そして今回の事件もまた物語として語られていく。その循環は、ネットやメディアによって事件が拡散され、やがて“コンテンツ”として消費されていく現代の社会をどこか象徴しているようにも感じられました。
それでもこの映画が忘れていないのは、その画面の向こう側には確かに人の人生があるということです。検索履歴やSNSの投稿、メールのやり取りといったデジタルの痕跡は、単なるデータではなく、その人が生きてきた証でもあります。ジューンはその断片を一つずつ拾い上げることで、母の元へとたどり着きました。
スクリーンの中には嘘も隠されています。しかし同時に、そこには誰かを救う手がかりも残されているのです。
『search/#サーチ2』は、そんな現代のデジタル社会を舞台にしながら、最終的には家族の関係の再生を描いた物語だったように思います。
印象に残ったシーン
・幼少期のホームビデオの本当の意味が明らかになる場面
物語の序盤では、ジューンの幼少期のホームビデオが映し出されます。そこには父ジェームズが鼻血を出している姿があり、ジューンはこれまで父が病気で亡くなったのだと信じて育ってきました。しかし物語が進むにつれて、その映像がグレイスによって編集されたものであったことが明らかになります。実際には薬物の影響による症状であり、グレイスは娘を守るために父の死を病気によるものとして記憶させていたのです。
そして物語のクライマックスでは、そのホームビデオに映っていた家が再び舞台となります。幼い頃の思い出として残されていた場所が、やがて真実と向き合う場所へと変わっていく。この構造はとても象徴的で、過去と現在が重なり合う瞬間でもありました。そこでジューンとグレイスがジェームズに立ち向かう場面は、この映画の大きな転換点でもあり、非常に印象的なシーンだったと思います。
・Siriで911を呼ぶラストの瞬間
クライマックスでジューンは監禁され、外部と連絡を取る手段を失ってしまいます。しかしジェームズは、ジューンのパソコンの電源を完全には切っていませんでした。ジューンはそのことに気づき、防犯カメラのマイクを利用して音声アシスタントに向かって助けを求めます。
「ねえSiri、911に電話して。」
この一言によって、ついに救助へとつながることになります。デジタル機器を駆使して事件の真相を追ってきたこの映画において、テクノロジーが最も劇的な形で人を救う瞬間でした。スクリーンライフという手法を象徴する、とても印象深い場面だったと思います。
演技
主人公ジューンを演じたストーム・リードの演技は、本作を成立させるうえで非常に大きな役割を果たしていました。スクリーンライフ映画では、通常の映画のように広い空間で身体表現を使う演技とは異なり、ほとんどがパソコンの画面越しやウェブカメラを通した表情の変化で感情を伝えなければなりません。その制約の中で、ジューンの焦りや不安、怒り、そして母を探し続ける決意といった感情を丁寧に表現しており、観客が物語に引き込まれる大きな要因になっていたように思います。
特に印象的なのは、ジューンが一人で調査を進めていく場面です。画面に向かって検索を繰り返し、少しずつ手がかりを見つけていく過程では、言葉にしなくても表情や仕草だけで状況の変化が伝わってきます。スクリーンライフという特殊な形式でありながら、観客が自然に感情移入できるのは、ストーム・リードの繊細な演技があってこそでしょう。
母グレイスを演じたニア・ロングも、登場時間こそ限られていますが、娘を守ろうとする母親の強さと複雑な過去を抱えた人物像を印象的に演じていました。娘を守るために過去を隠して生きてきた女性としての葛藤や、危機的状況の中でも娘を思う母の姿には、強い説得力がありました。
またコロンビアでジューンを助けるギグワーカーのハビを演じたジョアキム・デ・アルメイダの存在も、この映画に温かみを与えていたように思います。最初は仕事としてジューンの依頼を引き受けた彼ですが、次第に彼女を助けようとする姿には人間味があり、画面越しのやり取りだけでもその誠実さが伝わってきました。息子との関係に悩む父親という背景もあり、ジューンとグレイスの親子関係とどこか重なる存在として描かれている点も印象的でした。
この映画がおすすめなひと
・『search/サーチ』が好きだった人
前作と同じ“スクリーンライフ”という形式で物語が進むため、前作の面白さを感じた人には特に楽しめる作品だと思います。物語は独立しているので、本作から観ても問題ありませんが、前作を知っていると細かなつながりや仕掛けにも気づくことができるでしょう。
・ミステリーやサスペンスが好きな人
物語はジューンがデジタル機器を使いながら手がかりを探し、少しずつ真実に近づいていく構造になっています。画面の中の小さな情報が伏線になっていることも多く、謎を追いながら観る楽しさがあります。
・テンポの良い映画を観たい人
スクリーンライフ映画は基本的に画面の中の動きだけで物語が進むため、テンポが非常に良いのも特徴です。検索、通話、SNSのやり取りなどが次々と展開されるため、最後まで飽きずに観ることができる作品です。
・現代のデジタル社会を題材にした作品に興味がある人
スマートフォン、SNS、検索エンジン、監視カメラなど、現代の生活に密接に関わるテクノロジーが物語の中心になっています。そうした要素がどのように事件の手がかりになっていくのかを見るのも、この映画の大きな魅力の一つです。
・親子の物語が描かれる映画が好きな人
サスペンスとしての面白さだけでなく、母と娘の関係が物語の軸になっています。事件を通して、すれ違っていた親子の関係が変化していく点も、この映画の見どころの一つです。
評価
※評価は執筆時点のものです。
・Filmarks:★3.9 / 5.0
・IMDb:★7.1 / 10
視聴情報(サブスクリプション)
※配信状況は変わる場合があります。
・Amazon Prime Video
・U-NEXT(レンタル)
関連作品
・『search/サーチ(Searching)』(2018)
本作と同じ“スクリーンライフ”という形式で描かれた作品で、シリーズの始まりとなる映画です。失踪した娘を探す父親が、パソコンの中に残されたデジタルの痕跡を手がかりに事件の真相へと迫っていきます。メール、SNS、検索履歴など、日常的なデジタル機器の画面だけで物語が展開していくという斬新な手法が大きな話題になりました。『search/#サーチ2』とは登場人物や事件は異なりますが、同じ世界観の中で起きた出来事として位置づけられており、本作の中でもその事件がドラマとして描かれている場面が登場します。
→ こちらの作品については以前の記事でも書いています。
▶︎ search/サーチの記事はこちら
『search/サーチ(Searching)』―すべての痕跡は、画面の中にある - Cinematelier ─ 映画のアトリエ
・『RUN/ラン(Run)』(2020)
本作の原案・製作に関わっているアニーシュ・チャガンティが監督したスリラー映画で、編集を担当していたウィル・メリックとニック・ジョンソンが本作『search/#サーチ2』で長編監督デビューを果たしています。物語自体は直接つながっていませんが、作り手としての流れを見ると、本作につながる作品として興味深い一本です。
→ こちらの作品については以前の記事でも書いています。
▶︎ RUN/ランの記事はこちら
『RUN/ラン(Run)』――愛は、ときに檻になる - Cinematelier ─ 映画のアトリエ
関連商品
※価格は変動する場合があります。
※本記事にはアフィリエイトリンクが含まれます。
![search/#サーチ2 ブルーレイ + DVD セット [Blu-ray] search/#サーチ2 ブルーレイ + DVD セット [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51w9lEbn5iL._SL500_.jpg)