2022年にNetflixで配信された『マチルダ・ザ・ミュージカル』は、ロアルド・ダールの名作児童文学『マチルダは小さな大天才』を原作とし、世界中で愛された舞台ミュージカルを映画化した作品です。
子ども向け作品という印象を持たれがちですが、本作はネグレクトや権力による支配、不条理な社会への抵抗といったテーマも描かれており、大人だからこそ胸に響く作品でもあります。歌とダンスに彩られながらも、「知識」と「勇気」が人生を変えることを力強く伝えてくれる一本です。
あらすじ(ネタバレなし)
生まれながらに並外れた知性を持つ少女マチルダ・ワームウッド。しかし、両親は読書を嫌い、娘にほとんど愛情を注ぐことなく放置していました。
本だけを友達に育ったマチルダは、図書館で多くの物語に触れながら豊かな想像力を育んでいきます。
ようやく学校へ通うことになった彼女でしたが、待っていたのは恐怖で生徒を支配する校長ミス・トランチブルでした。暴力と理不尽なルールで子どもたちを従わせる学校で、唯一優しく接してくれる教師ミス・ハニーだけが、マチルダの才能を理解します。
やがてマチルダは、自分の中に不思議な力が眠っていることに気付きます。その力と勇気、そして知恵を武器に、彼女は子どもたちを苦しめる大人たちへ立ち向かう決意を固めるのでした。
笑いあり、歌あり、そして胸を熱くする感動が待ち受ける、家族で楽しめるファンタジー・ミュージカルです。
感想
※ここからは作品の核心に触れる内容を含みます。
この映画を観るまで、マチルダというキャラクターの存在は知っていたものの、原作や過去の映画版についてはほとんど知識がありませんでした。そのため、先入観なく新鮮な気持ちで作品を楽しむことができました。
最初は「子ども向けの楽しいミュージカルなのだろう」という印象で観始めましたが、その予想は良い意味で裏切られます。確かにコミカルでテンポも軽快ですが、その裏にはネグレクトや虐待、権力による支配など、決して軽くないテーマが描かれていました。
ワームウッド夫妻は娘を理解しようともせず、読書ばかりするマチルダを邪魔者扱いします。子どもの才能を伸ばすどころか否定し続ける姿は、極端な描写ではあるものの、「子どもの個性を認めない大人」の象徴のようにも感じました。
それでもマチルダは大人を憎むだけではありません。本を読み、知識を身につけ、ユーモアを忘れず、自分なりの方法で立ち向かっていきます。いたずらで仕返しをする場面もありますが、それは暴力ではなく知恵による反撃です。知識こそが武器になるという作品のメッセージがよく表れていました。
一方で、本作最大の悪役であるトランチブル校長は、近年のファミリー映画でも屈指の強烈なヴィランではないでしょうか。
子どもたちを恐怖で支配し、恐ろしい罰を平然と与え、力による支配を当然のものとして振る舞います。その極端さは現実離れしているようでいて、「権力者が恐怖によって人を従わせる」という構図は、現実社会にも通じるものがあります。
だからこそ終盤、子どもたちが恐怖から解放され、トランチブルが学校を去る場面は非常に爽快でした。
特に印象深かったのは、マチルダが黒板を使ってエスカポロジスト(脱出奇術師)の亡霊を演出するシーンです。
彼女の超能力はもちろんファンタジーですが、それ以上に「物語の力」で悪を打ち負かす演出になっているところが素晴らしいと思いました。幼い頃から物語を読み続けてきたマチルダだからこそ、最後の決着も"物語"によってつけるのです。
また、マチルダが語っていた創作だと思われていた物語が、実はミス・ハニーの過去そのものだったという展開も見事でした。
脱出奇術師と軽業師、そして残酷な義姉という悲しい物語が、ミス・ハニー自身の人生だったと分かった瞬間、物語全体が一本の線でつながります。単なる伏線回収ではなく、「誰かの人生もまた物語である」という作品全体のテーマにも重なっていました。
そしてラスト。
父親がマフィアを騙したことで一家はスペインへ逃げることになりますが、マチルダはミス・ハニーの娘として新しい人生を歩むことを選びます。
血のつながりではなく、「愛情を与えてくれる人こそ本当の家族である」という結末は、とても温かく、希望に満ちていました。
ミュージカル映画としても完成度が高く、楽曲はどれも耳に残ります。子どもたちが歌うナンバーには未来への希望が込められ、大人たちの楽曲には皮肉やブラックユーモアが散りばめられていました。
子ども向け作品だからと敬遠してしまうには、あまりにも惜しい一本です。笑いあり、感動あり、そして社会風刺も効いた、大人も十分楽しめるミュージカル映画でした。
演技
主演のアリーシャ・ウィアーは、本作が信じられないほど堂々とした映画主演デビューとなりました。歌唱力はもちろん、知性と純粋さ、そして芯の強さを兼ね備えたマチルダ像を見事に体現しています。
エマ・トンプソンは特殊メイクを施し、圧倒的な存在感でトランチブルを怪演しています。恐ろしくもどこか滑稽で、子ども映画らしいデフォルメされた悪役でありながら、決して漫画的になりすぎない絶妙なバランスでした。
ラシャーナ・リンチ演じるミス・ハニーは、優しさだけではなく、長年支配され続けてきた女性の弱さや葛藤も丁寧に表現しています。終盤に自分の人生を取り戻していく姿には自然と涙がこぼれました。
さらに、スティーヴン・グレアムとアンドレア・ライズボローは最低な両親でありながら、どこかコミカルな魅力も持たせており、作品全体のユーモアを支えています。
実力派俳優たちと若いキャストが見事に調和し、ミュージカル映画として非常に完成度の高いアンサンブルになっていました。
この映画がおすすめなひと
- 心温まるファミリー映画が好きな方
- ミュージカル映画が好きな方
- 子どもが主人公でも大人が楽しめる作品を探している方
- ブラックユーモアと感動の両方を味わいたい方
評価
※評価は執筆時点のものです。
- Filmarks:★★★☆ 3.7 / 5.0
- IMDb:★★★★☆ 7.0 / 10
視聴情報(サブスクリプション)
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- Netflix