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『エルヴィス(Elvis)』- 栄光の裏で失われた自由

 

"キング・オブ・ロックンロール"と呼ばれ、今なお世界中で愛され続けるエルヴィス・プレスリー。しかし、その華やかなステージの裏には、一人の天才が自由を奪われ続けた壮絶な人生がありました。

『エルヴィス』は、単なる音楽映画でも成功譚でもありません。伝説的スターを生み出した男でありながら、その人生を支配し続けたマネージャー、トム・パーカー大佐の視点から描かれる異色の伝記映画です。

監督は『ムーラン・ルージュ』『華麗なるギャツビー』で知られるバズ・ラーマン。圧倒的な映像美と音楽、そしてライブさながらの臨場感で、エルヴィスという一人の人間の栄光と苦悩を描き切っています。

音楽を愛する人はもちろん、成功と支配、自由と孤独という普遍的なテーマに惹かれる人にもぜひ観ていただきたい一本です。

 

あらすじ(ネタバレなし)

 

1954年、カントリー歌手のマネージャーだったトム・パーカーは、ある若き歌手と出会います。その青年こそ、後に"キング・オブ・ロックンロール"と呼ばれるエルヴィス・プレスリーでした。

黒人音楽に深く影響を受けた独特の歌唱と、誰も見たことのない情熱的なステージパフォーマンス。エルヴィスは瞬く間に全米を熱狂させ、時代を象徴するスターへと駆け上がっていきます。

しかし、その斬新なスタイルは保守的な社会から激しい批判を受け、政治家や権力者たちから危険視される存在にもなっていきます。

一方、マネージャーであるパーカーは卓越したビジネス手腕でエルヴィスを成功へ導く一方、彼の人生を巧みに支配していきます。

兵役、映画出演、ラスベガス公演、結婚、そして世界ツアーへの夢――。

スターとして輝き続ける一方で、自由を失っていくエルヴィス。その華やかな人生の裏側には、誰にも語られることのなかった真実が隠されていました。

 

感想

※ここからは作品の核心に触れる内容を含みます。

 

私はエルヴィス・プレスリーについて、正直そこまで詳しいわけではありませんでした。知っている曲も限られていましたし、「ロックンロールの王様」という漠然としたイメージしか持っていませんでした。

そのため、本作も「スターが成功し、破滅していくよくある伝記映画なのだろう」と思って観始めたのですが、その印象は大きく覆されました。

この映画で最も印象に残ったのは、エルヴィスが黒人音楽を心から愛していたという事実です。

幼い頃から黒人居住区で育ち、教会のゴスペルやブルースに自然と親しみ、それを自分の音楽として昇華していく姿は非常に興味深く描かれています。

当時のアメリカは人種差別が色濃く残る時代でした。黒人音楽を白人が歌うこと自体が批判の対象となり、「黒人の真似をしている」「白人社会を乱す存在」とまで言われます。

それでもエルヴィスは、自分が愛した音楽を貫こうとしました。

単なる人気スターではなく、音楽への純粋な情熱を持った一人の表現者だったことが、この映画から強く伝わってきます。

一方で、本作最大の"悪役"とも言える存在がトム・パーカー大佐です。

もちろん、彼がいなければエルヴィスが世界的スターになれたかどうかは分かりません。

しかし、その成功の裏で彼が行ってきたことは、マネージャーというより"支配者"そのものでした。

稼ぎの半分を受け取り、世界ツアーを阻止し、自分のギャンブルの借金をエルヴィスに背負わせ、借金によって自由を奪い続ける。

その姿は、映画に登場する架空の悪役以上に恐ろしく感じました。

特に海外公演を執拗に止め続けた理由が、「自分は不法移民だからアメリカを出られない」という極めて身勝手な理由だったことには衝撃を受けます。

エルヴィス自身の夢や将来ではなく、自分の利益だけを優先し続ける姿勢には怒りすら覚えました。

終盤でエルヴィスがパーカーから離れようとしても、多額の借金によって逃げられない状況になっている展開は、まるで精神的な監禁状態を見ているようでした。

成功したはずのスーパースターが、実は誰より自由を失っていたという皮肉が胸に刺さります。

本作は伝記映画として見ると、ややテンポが速く、一つひとつの出来事を深く掘り下げきれていない印象もあります。

しかし、それを補って余りある映像表現とライブシーンの迫力があります。

バズ・ラーマン監督らしいエネルギッシュな演出によって、まるでライブ会場にいるような没入感を味わえる作品になっています。

エルヴィスというスターを知らない人でも、その人生を知るきっかけとして十分に価値のある一本だと感じました。

 

演技

オースティン・バトラー

本作最大の成功は、間違いなくオースティン・バトラーの存在でしょう。

単なる"そっくりさん"ではなく、歌い方、話し方、歩き方、目線、仕草まで徹底的にエルヴィスを研究しており、本当に本人がそこにいるかのような説得力があります。

ライブシーンでは圧巻の存在感を放ち、若き日の勢いから晩年の苦悩まで見事に演じ分けました。

この演技によって数々の映画賞にノミネートされたことも納得の名演です。

トム・ハンクス

これまで誠実で温かい人物を演じることの多かったトム・ハンクスですが、本作ではまったく違う顔を見せています。

愛想よく振る舞いながらも、常にエルヴィスを操り、自分の利益だけを追い求めるパーカー大佐。

直接怒鳴るわけではないのに、じわじわと相手を支配していく不気味さはさすがの一言です。

観客から嫌われる役をここまで説得力を持って演じられるのは、やはり名優だからこそだと感じました。

 

この映画がおすすめなひと

  • エルヴィス・プレスリーが好きな人
  • 音楽伝記映画が好きな人
  • 『ボヘミアン・ラプソディ』『ロケットマン』が好きな人
  • 実話を基にした映画が好きな人
  • 圧巻のライブシーンを映画館レベルの迫力で楽しみたい人
  • オースティン・バトラーの名演を堪能したい人

評価

※評価は執筆時点のものです。

  • Filmarks:★★★★☆(3.8 / 5.0)
  • IMDb:★★★★☆(7.3 / 10)

視聴情報(サブスクリプション)

※配信状況は変わる場合があります。

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エルヴィス(字幕版)

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