Cinematelier ─ 映画のアトリエ

名作からコア作品まで、余韻を大切に綴る映画ノート

『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン(Fly Me to the Moon)』― 世界が見た「月」の裏側

 

1969年、人類が初めて月へ降り立ったアポロ11号計画。

世界中が固唾をのんで見守った歴史的瞬間ですが、その一方で「月面着陸は実はスタジオで撮影されたフェイク映像だった」という陰謀論が、半世紀以上経った今でも語られ続けています。

『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』は、その有名な都市伝説を大胆な発想でロマンティック・コメディへと昇華した作品です。

史実をベースにしながらもフィクションを巧みに織り交ぜ、NASAの人々が抱えていた重圧や国家プロジェクトの裏側、そして一人のマーケティングのプロと実直な打ち上げ責任者との恋愛を軽快なテンポで描いています。

笑える場面も多く、歴史映画でも恋愛映画でもある、他にはない魅力を持った一本です。

 

あらすじ(ネタバレなし)

1969年。

アメリカとソビエト連邦による宇宙開発競争が佳境を迎え、人類初の月面着陸を目指すアポロ11号計画はいよいよ最終段階へと入っていました。

しかし、膨れ上がる予算や度重なる計画の遅れによって世論はNASAへ厳しい目を向け始め、人々の関心も薄れつつありました。

そんな状況を打開するため、大統領側近を名乗るモーは、広告業界で数々の実績を残してきたマーケティングのプロ、ケリー・ジョーンズをNASAへ送り込みます。

企業とのタイアップや大胆なPR戦略によって世論を動かそうとするケリーですが、現場で打ち上げ責任者を務めるコール・デイヴィスは、真面目な性格ゆえに彼女のやり方へ強く反発します。

正反対の価値観を持つ二人は何度も衝突しながらも、お互いを理解し始め、少しずつ距離を縮めていきます。

ところが打ち上げが目前に迫ったある日、ケリーは国家機密ともいえる極秘任務を命じられます。

それは、万が一アポロ11号が失敗した場合に備え、「月面着陸成功」のフェイク映像を制作することでした――。

歴史の裏側で描かれるもう一つの"月面着陸計画"が、ユーモアとスリルを交えて展開していきます。

 

感想

※ここからは作品の核心に触れる内容を含みます。

 

『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』を観てまず驚いたのは、世界中で語られてきた「月面着陸フェイク説」を真正面から物語の題材にしてしまった大胆さでした。

「実は月面着陸はスタジオ撮影だった」という都市伝説は誰もが一度は耳にしたことがあると思います。その陰謀論をここまでエンターテインメントとして昇華してしまう発想は、まさにアメリカ映画だからこそできた企画だと感じました。

ただ、この作品は決して陰謀論を肯定しているわけではありません。

むしろ逆でした。

フェイク映像を本当に準備していたという大胆な設定を描きながら、最後には本物の月面映像が世界へ届けられる展開にすることで、「人類は本当に月へ行った」という史実をより力強く描いているように思えます。

都市伝説を利用しながら、その都市伝説を否定する作品。

その構成が非常に面白く感じられました。

また、本作ではアポロ計画そのものがどれほど国家の命運を左右するプロジェクトだったかも伝わってきます。

ソビエト連邦との宇宙開発競争は、単なる科学技術の競争ではありませんでした。

どちらの国家が世界の未来をリードするのかという、国家の威信を懸けた戦いだったのです。

だからこそ、失敗は絶対に許されません。

政府が「失敗した場合の映像まで準備しよう」と考えるという設定にも、フィクションでありながら妙な説得力がありました。

もちろん実際にはそのような計画が存在した証拠はありません。しかし、「もし国家がそこまで追い詰められていたら」と考えさせられる絶妙なラインを描いているところが、本作の面白さでもあります。

物語の中心となるケリーも非常に魅力的でした。

広告業界で培った話術と発想力で、人々の心を動かし、企業を巻き込み、政治家までも説得してしまう姿は爽快です。

最初は「やりすぎでは」と感じる彼女の手法も、次第にNASAという組織を本気で成功させたいという想いへ変わっていく様子が丁寧に描かれていました。

一方のコールは、真面目で不器用ながら、自分の仕事に誇りを持つ技術者です。

マーケティングを重視するケリーとは正反対ですが、だからこそ二人の関係には説得力がありました。

恋愛映画としても非常に心地よく、対立から信頼、そして恋愛へと発展する流れも自然でした。

終盤でケリーが全てを打ち明け、コールとともに本物の映像を世界へ届けようと奮闘する展開は、本作最大の見どころです。

そしてスタジオへ迷い込んだ猫によって、フェイク映像ではないことが判明する場面は、本作らしいユーモアにあふれていました。

シリアスになり過ぎず、最後まで軽快なテンポを保ちながら物語を締めくくる演出は見事だったと思います。

スカーレット・ヨハンソンとチャニング・テイタムという実力派俳優二人の相性も抜群でした。

コメディのテンポ、ロマンス、そして歴史ドラマとしての重厚さが絶妙なバランスで共存しており、重いテーマを扱いながらも最後まで楽しく観ることができました。

アポロ計画や月面着陸という歴史的出来事を知っている方であれば、史実とフィクションが交差する本作をより一層楽しめると思いますし、宇宙開発に興味がある方にもぜひおすすめしたい作品です。

 

演技

スカーレット・ヨハンソン

スカーレット・ヨハンソンは、ケリーという一見自信満々で華やかな女性の裏にある葛藤や罪悪感を繊細に演じています。

軽妙なコメディセンスはもちろん、恋愛映画のヒロインとしての魅力も十分で、本作全体を明るく引っ張る存在でした。

チャニング・テイタム

チャニング・テイタムは、誠実で実直なNASA職員を好演しています。

派手さはありませんが、仕事に人生を懸ける男としての責任感が伝わってきます。

ケリーとのテンポの良い掛け合いも心地よく、ロマンティック・コメディとしての魅力を大きく支えていました。

 

この映画がおすすめなひと

  • アポロ計画やNASAの歴史に興味がある方
  • 月面着陸の都市伝説を知っている方
  • ロマンティック・コメディが好きな方
  • 実話をベースにしたフィクション作品が好きな方
  • スカーレット・ヨハンソン、チャニング・テイタムのファン
  • 軽快なテンポで楽しめる歴史映画を探している方

評価

※評価は執筆時点のものです。

  • Filmarks:★★★★☆(3.8/5.0)
  • IMDb:★★★★☆(6.6/10)

視聴情報

※配信状況は変わる場合があります。
※この記事にはAmazonアソシエイトのリンクが含まれています。

  • Amazon Prime Video(レンタル)

 

フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン

フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン

  • スカーレット・ヨハンソン
Amazon