Cinematelier ─ 映画のアトリエ

名作からコア作品まで、余韻を大切に綴る映画ノート

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。(It)』―恐怖を乗り越えた少年たちのひと夏―

 

ホラー映画史において、「ピエロ」と聞いて真っ先に思い浮かぶ存在といえば、ペニーワイズではないでしょうか。

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』は、ホラー小説の巨匠スティーブン・キングの代表作『It』を現代向けに映画化した作品です。

公開前から不気味なピエロのビジュアルが話題となり、世界中で大ヒットを記録しました。しかし本作は単なるホラー映画ではありません。

子どもたちがそれぞれの恐怖や家庭環境、いじめと向き合いながら成長していく青春映画でもあり、友情や勇気を描いた物語でもあります。

恐怖に立ち向かう7人の少年少女の姿は、観終わったあとに爽やかな余韻さえ残してくれるでしょう。

 

あらすじ(ネタバレなし)

1988年、アメリカ・メイン州デリー。

雨の日、少年ジョージーは兄ビルに作ってもらった紙船を流して遊んでいました。しかし紙船は排水溝へと流されてしまいます。

船を拾おうとしたジョージーは、排水溝の中から現れた奇妙なピエロに声を掛けられます。

「僕はダンシング・クラウン、ペニーワイズ。」

楽しそうに話しかけてくるそのピエロは、次の瞬間、ジョージーを闇へと引きずり込みます。

弟を失ったビルは、その悲しみを抱えながらも、親友のリッチー、エディ、スタンとともに夏休みを過ごしていました。

そんな中、町では子どもの失踪事件が相次ぎます。

転校生のベンは、デリーという町では何世紀にもわたって子どもたちが姿を消してきたことを知り、その謎を調べ始めます。

一方、少女ベバリーは学校でのいじめだけでなく、家庭でも父親から精神的・身体的な虐待を受けながら生活していました。

さらにマイクは人種差別、エディは過保護な母親、スタンは厳格な家庭環境など、それぞれが悩みを抱えています。

やがて彼らは、自分だけが見ていると思っていた恐ろしい怪異が、実は全員に共通する存在であることに気付きます。

その怪物は、それぞれの「最も恐れているもの」の姿となって現れる存在でした。

自らを「ルーザーズ・クラブ(負け犬クラブ)」と名乗った7人は、町に潜む正体不明の怪物「それ(It)」に立ち向かうことを決意します。

果たして彼らは、27年ごとに子どもたちを襲う恐怖からデリーの町を救うことができるのでしょうか。

 

感想

※ここからは作品の核心に触れる内容を含みます。

 

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』は、「ホラー映画」という印象が非常に強い作品です。

私自身も観る前は、「かなり怖い映画なのだろう」と身構えていました。

ところが実際に観てみると、想像していたほど恐怖一辺倒の作品ではありませんでした。

もちろんペニーワイズが突然現れる場面では驚かされます。

ジャンプスケアの演出も多く、一瞬心臓が跳ね上がるようなシーンは少なくありません。

しかし、その恐怖は長く尾を引くタイプではなく、どちらかといえばアトラクション的な驚きに近い印象でした。

もちろん、ピエロ恐怖症の方であれば、ペニーワイズが画面に現れるだけでも十分に恐ろしく感じるでしょう。

ビル・スカルスガルドが作り上げたペニーワイズは、人間らしい親しみやすさと異形の怪物らしさを絶妙なバランスで共存させています。

笑っているようで笑っていない目。

どこか子どもを誘惑するような優しい口調。

そして一瞬で怪物へと変貌する不気味さ。

このキャラクター造形だけでも、本作が長く語り継がれている理由がよく分かります。

ですが、本作を観て最も驚いたのは、「これはホラー映画というよりも少年たちの青春映画なのではないか」という点でした。

物語の中心にあるのは怪物との戦いではありません。

それぞれが抱えている恐怖や孤独と向き合いながら、本当の仲間を見つけていく過程なのです。

ビルは弟を失った罪悪感を抱えています。

ベバリーは家庭内で安心できる居場所を持っていません。

ベンはいじめられ続け、自分に自信がありません。

エディは母親によって「病弱な子」と思い込まされ、自分自身の可能性を閉ざされています。

マイクは差別と孤独を経験し、スタンは理屈では説明できない恐怖を受け入れられません。

そしてリッチーは、いつも冗談ばかり言っているように見えますが、その裏では恐怖をごまかそうとしているようにも見えます。

ペニーワイズは、そんな彼ら一人ひとりの弱さにつけ込んできます。

つまり、「それ(It)」とは単なる怪物ではなく、人が抱える恐怖そのものを象徴している存在なのです。

だからこそ、それぞれ違う姿で現れます。

誰かにとっては腐敗した病人であり、誰かにとっては首のない少年であり、また誰かにとっては最も会いたかった家族の姿にもなります。

恐怖の形は、人それぞれ違う。

その設定が、この作品を単なるモンスター映画では終わらせていない理由でしょう。

そして興味深いのは、ペニーワイズは「恐怖」を糧にしているということです。

恐怖が強ければ強いほど、「それ」は力を増します。

逆に、恐怖を乗り越えた瞬間、「それ」は弱体化していきます。

これは現実世界にも通じるメッセージではないでしょうか。

私たちも不安や恐怖を抱えている間は、その問題が実際以上に大きく見えてしまうことがあります。

しかし、一歩踏み出して向き合うことで、その恐怖は思っていたほどではなかったと気付くことがあります。

本作は、そんな普遍的なテーマをホラーというジャンルに落とし込んだ作品なのだと感じました。

 

この作品で印象的なのは、7人の子どもたちは一人では決してペニーワイズに勝てなかったということです。

誰か一人だけでは恐怖に飲み込まれてしまいます。

しかし、仲間がいることで勇気を持つことができ、自分の弱さを受け入れられるようになります。

「負け犬クラブ」という名前も非常に象徴的です。

学校では落ちこぼれ。

いじめの対象。

家庭にも問題を抱えている。

社会から見れば"負け犬"かもしれません。

それでも彼らは、お互いを否定することなく支え合います。

だからこそ、本当に強い存在へと成長していくのです。

ホラー作品でありながら、友情映画としても完成度が高いのかなと思いました。

 

演技

ジェイデン・リーバハー(ビル・デンブロウ役)

主人公ビルの責任感や弟を失った喪失感を繊細に演じています。

吃音という設定も無理なく表現されており、仲間を引っ張ろうとする強さと、一人の少年としての弱さが共存していました。

物語の中心として十分な存在感を放っています。

ビル・スカルスガルド(ペニーワイズ役)

本作最大の見どころといえる存在です。

愛嬌すら感じさせる笑顔から、一瞬で怪物へと変貌する演技は圧巻でした。

ペニーワイズというキャラクターを現代のホラーアイコンへ押し上げた最大の功労者でしょう。

ジャクソン・ロバート・スコット(ジョージー役)

登場時間は決して長くありませんが、物語全体の原動力となる重要な役どころです。

紙船を追いかける無邪気さと、ペニーワイズに出会う恐怖との落差が強く印象に残ります。

短い出演ながら観客の記憶に残る演技でした。

 

この映画がおすすめな人

・スティーブン・キング作品が好きな方

・ホラー映画初心者で比較的観やすい作品を探している方

・青春映画や少年少女の友情を描いた作品が好きな方

・『ストレンジャー・シングス』のような雰囲気が好きな方

・続編まで含めて壮大な物語を楽しみたい方

 

評価

※評価は執筆時点のものです。

・Filmarks:★★★☆☆(3.4 / 5.0)

・IMDb:★★★★★★★☆☆☆(7.3 / 10)

 

視聴情報(サブスクリプション)

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