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『MERCY/マーシー AI裁判(Mercy)』― 完璧な裁きは、本当に存在するのか

 

AIが人間を裁く――そんな未来は、もはや完全なフィクションとは言い切れない時代になってきました。

『MERCY/マーシー AI裁判(Mercy)』は、AIが司法を担う近未来を舞台にしたSFスリラー作品です。監督は『ウォンテッド』などで知られるティムール・ベクマンベトフ。主演はクリス・プラット、そしてAIの判事をレベッカ・ファーガソンが演じています。

本作は、AIが裁判を行うという大胆な設定を持ちながらも、アクションやサスペンスとしてのエンターテインメント性を前面に押し出した作品でもあります。一方で、「AIに人を裁かせることは本当に正しいのか」という倫理的な問いも物語の奥に潜んでいます。

技術が進歩する時代だからこそ、より現実味を帯びてくるテーマを扱った作品です。

 

あらすじ(ネタバレなし)

近未来のロサンゼルス。犯罪の増加によって司法制度は限界に達し、人間の代わりにAIが裁判を行う「マーシー裁判所」が設立されます。

この裁判では、被告人は90分以内に無罪を証明できなければ処刑されるという極端な制度が採用されています。AIは感情ではなく証拠だけをもとに判断するため、人間よりも公平な裁判ができると考えられていました。

ある日、ロサンゼルス市警の刑事クリス・レイヴンが目を覚ますと、自分がそのマーシー裁判所に拘束されていることに気づきます。

彼に突きつけられた罪は、妻ニコールの殺害容疑。

裁判を担当するのはAI判事のマドックス。
クリスは90分という制限時間の中で、自ら捜査を行い、無罪を証明しなければなりません。

すべての証拠が自分の犯行を示しているように見える状況の中で、彼は事件の真相を追い始めます。

時間が刻一刻と迫る中、やがてこの事件は単なる殺人事件ではなく、AI裁判そのものを揺るがす大きな秘密へとつながっていきます。

 

感想・考察

※ここからは作品の核心に触れる内容を含みます。

この映画を観てまず思ったのは、『search/サーチ』や『search/サーチ2』に似ているということでした。

今作で監督を務めているティムール・ベクマンベトフは、『search/サーチ』の一作目で製作にも関わっています。スクリーンライフ映画の先駆者とも言える存在であり、その影響を感じる部分はかなりありました。

実際、本作でも画面の中で様々な映像が表示され、それらを通じて物語が進んでいきます。監視カメラ、SNSなど、さまざまなデジタル情報が画面上に重なっていく演出は非常にクオリティーが高く、AI裁判という設定ともよく合っていたと思います。

ただ一方で、そのデジタル映像のリアリティが高い分、CGで描かれている炎などのシーンでは逆にCG感が強く出てしまい、そこは少し残念に感じました。

また、この映画の設定自体はとても興味深いものです。AIが直感や感情ではなく、証拠だけで人の有罪・無罪を判断するという発想は非常に面白いと思いました。

しかし物語が進むにつれて、そのAIの振る舞いが少し揺らいでいきます。

本来ならば完全に論理的であるはずのAIが、どこか人間的な動きを見せる場面があり、主人公を助けるように動くようにも見える部分があります。そのあたりの描写は、やや物語の都合のようにも感じられました。

さらに、捜査の進め方にも少し無理がある部分があります。ジャックがかなり無謀な捜査を進めていくことや、捜査のほとんどを一人で指揮しているように見える展開など、近未来の社会を描いているはずなのに、どこか現在の警察ドラマの延長のような感覚がありました。

また、この映画で登場する近未来の乗り物などの描写も印象的ではあるのですが、それ以外の部分は意外と現代に近い感覚で描かれているため、未来と現在の間に少し不思議な距離感があるようにも感じました。

とはいえ、この作品が本当に言いたいことは別のところにあるのだと思います。

それは、「AIは本当に完璧なのか」という問いです。

AIは人間よりも合理的で、感情に左右されない判断をすると言われます。しかし、もしそのAIが誤った情報をもとに判断してしまったらどうなるのか。あるいは、そのAIを運用する人間が誤った意図を持っていたらどうなるのか。

そう考えると、AIは便利である一方で、決して万能ではないのかもしれません。

そしてもう一つ感じたのは、犯罪が増加しすぎた社会では、司法制度そのものが限界を迎える可能性があるということです。人間の裁判だけでは処理しきれないほど事件が増えたとき、AIの導入という選択肢は現実の世界でも出てくるのかもしれません。

だからこそ、この映画は完全なSFというよりも、近い未来の可能性を描いた作品のようにも感じられました。

設定や脚本に少し惜しい部分はありますが、画面の中でストーリーが進んでいく演出のクオリティーは非常に高く、スリラーとしての緊張感やアクション映画としてのエンターテインメント性も十分あります。

さらに、物語の終盤ではきちんと伏線が回収される展開もあり、最後まで楽しめる作品になっていると思います。

 

演技

主人公クリスを演じたクリス・プラットは、これまでの親しみやすさを感じるイメージとは少し違う役柄を見せています。

アルコール依存症に苦しみ、怒りっぽい一面を持ちながらも、刑事としての正義感や娘への愛情を抱えている人物であり、複雑な感情を持つ主人公をうまく演じていたと思います。

またAIの判事マドックスを演じたレベッカ・ファーガソンも印象的でした。

AIとしての無機質さを保ちながらも、どこか人間のような気配を感じさせる演技はとても難しい役だったと思いますが、その微妙なバランスをうまく表現していたと感じました。

 

評価

※評価は執筆時点のものです。

・Filmarks:★☆3.8 / 5.0
・IMDb:★☆6.1 / 10

 

視聴情報(サブスクリプション)

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関連作品

画面上のデジタル情報を通して物語が展開していく作品として思い浮かぶのが
search/サーチ
search/サーチ2 です。

どちらもパソコンやスマートフォンの画面の中でストーリーが進む「スクリーンライフ」形式の作品で、本作の演出にも通じるものがあります。

また、AIというテーマをより深く掘り下げた作品としては、エクス・マキナ もおすすめです。

AIに人格や意志があるのか、人間はAIに何を投影してしまうのかというテーマを鋭く描いた作品で、本作とあわせて観るとAIという存在についてより考えさせられると思います。

なお、以下の作品については、以前の記事でも詳しく紹介しています。興味のある方は、ぜひあわせてお読みください。

www.cinematelier.net

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この映画がおすすめの人

まず、近未来のテクノロジーを扱ったSFスリラーが好きな人にはおすすめできる作品です。AIが裁判を行うという設定は非常にユニークで、もし本当にそんな社会が訪れたらどうなるのかを想像しながら観る楽しさがあります。

また、『search/サーチ』や『search/サーチ2』のように、画面の中の情報から物語が進んでいくタイプの映画が好きな人にも向いていると思います。監視カメラ映像やSNSなど、様々なデジタル情報が組み合わさって事件の真相に迫っていく構造は、その系譜にある作品だと感じました。

さらに、AIと人間の関係について考えさせられる作品が好きな人にもおすすめです。AIは感情に左右されないため人間よりも公平な判断ができると言われますが、本作では「AIが人を裁くことの危うさ」も描かれています。AIが社会に深く入り込んでいくこれからの時代において、決して他人事ではないテーマだと感じました。

そしてもちろん、テンポの良いスリラーやアクション映画として楽しみたい人にも向いています。90分という時間制限の中で無罪を証明しなければならないという設定は緊張感があり、次々に新しい情報が明らかになっていく展開はエンターテインメントとしても十分に楽しめると思います。