大学のアカペラを題材にした青春音楽映画『ピッチ・パーフェクト』。
「アカペラ映画」と聞くと、歌唱力の高い登場人物たちが美しいハーモニーを披露する作品を想像するかもしれません。しかし、本作の魅力はそれだけではありません。
有名なポップソングを次々とつなぎ合わせるマッシュアップ、まるでスポーツの試合のようなアカペラ対決、個性的すぎる仲間たちとの友情、ライバルとの競争、そして恋。
それらをテンポのいいコメディとしてまとめながら、中心にあるのは「自分の音を見つける」というベッカの成長物語です。
主演のアナ・ケンドリックをはじめ、キャストたちの歌唱力とパフォーマンスも見事で、音楽が好きな人なら思わず身体でリズムを取りたくなるような楽しさがあります。
何より印象的なのは、最初はバラバラだった声が、少しずつひとつのハーモニーになっていくこと。
『ピッチ・パーフェクト』は、音楽の楽しさと青春映画の爽快感を詰め込んだ、何度でも聴きたくなるような一本です。
あらすじ(ネタバレなし)
音楽プロデューサーになることを夢見るベッカ(アナ・ケンドリック)は、大学教授である父親の勧めによって、気乗りしないままバーデン大学へ入学します。
大学生活にもサークル活動にもほとんど興味を示さず、彼女が唯一楽しみにしていたのは、校内ラジオ局でのアルバイトと、自分で音楽を編集してマッシュアップを作ることでした。
そんなラジオ局でベッカは、同じ新入生のジェシーと知り合います。
音楽好きという共通点もあり、少しずつ距離を縮めていく二人。しかしジェシーは、大学を代表する男性アカペラグループ「トレブルメーカーズ」に加入することになります。
一方のベッカにも、思いがけない転機が訪れます。
シャワーを浴びながら歌っていたところ、その歌声を偶然耳にしたクロエから、女性アカペラグループ「バーデン・ベラーズ」のオーディションを受けるよう誘われたのです。
当初はまったく乗り気ではなかったベッカでしたが、オーディションでその歌声を披露し、ベラーズのメンバーになります。
そこには、自らを「ファット・エイミー」と名乗る陽気なエイミーをはじめ、ステイシー、シンシア、リリーなど、強烈な個性を持つ新入生たちが集まっていました。
彼女たちを率いるのは、伝統と規律を何よりも重視するリーダーのオーブリー。
ベッカは次第にグループに馴染んでいきますが、新しい音楽を作りたい彼女と、これまでのスタイルを守ろうとするオーブリーとの間には、やがて大きな溝が生まれていきます。
そして全国大会への道には、ジェシーが所属する強豪トレブルメーカーズが立ちはだかります。
伝統を守るのか、それとも新しい音を鳴らすのか。
個性も考え方もまったく違う彼女たちは、ひとつの声になることができるのでしょうか。
感想
※ここからは作品の核心に触れる内容を含みます。
『ピッチ・パーフェクト』には、女子同士の衝突、男性アカペラグループ「トレブルメーカーズ」とのライバル関係、ベッカとジェシーの恋、そして有名楽曲を使ったマッシュアップなど、とにかくたくさんの見どころがあります。
しかし、その賑やかさの奥にあるのは、意外なほど王道の青春物語です。
それは、ひとりで生きようとしていたベッカが、誰かと一緒に何かを作る喜びを知っていく物語なのだと思います。
ベッカは「音楽を作れる」のに、人とはうまく混ざれない
ベッカは最初から才能のある人物として描かれています。
彼女は音楽を聴くだけではなく、曲を分解し、別の曲と組み合わせ、新しい音へと作り変えることができます。
しかし人間関係では、むしろその反対です。
人との間に距離を置き、自分の世界に閉じこもり、誰かが近づいてくると一歩引いてしまいます。
ここが面白いところです。
音楽では異なるものを混ぜ合わせることが得意なのに、人生では自分と他人を混ぜ合わせることができない。
だからこそ、ベッカがアカペラグループに入るという設定には意味があります。
アカペラは、一人では成立しません。
誰かがメロディーを歌い、誰かが低音を支え、誰かがリズムを刻む。それぞれ違う声だからこそ、重なったときに音楽になります。
ベッカがベラーズで学んでいくのも、まさにそのことでした。
『ピッチ・パーフェクト』を単純なアカペラ映画で終わらせなかった最大の要素が、マッシュアップです。
一曲を美しく歌い上げるのではなく、異なる曲を大胆につなぎ、リズムを変え、知っている曲なのに初めて聴くような感覚を作り出します。
これによってアカペラの場面にも予想外の展開が生まれ、音楽そのものが「バトル」のようになっています。
次々と曲が切り替わり、相手の歌を別の歌で受け取り、さらに別のメロディーへつないでいく。
歌唱力だけではなく、瞬発力、選曲、アイデア、チームワークまでが試されます。
だから観客も、ただ歌を「聴く」のではなく、試合を「観る」ような感覚で楽しめます。
そしてマッシュアップという手法は、ベラーズそのものにも重なります。
ファット・エイミー、クロエ、ステイシー、シンシア、リリー、そしてベッカ。
性格も外見も声もまったく違います。
それぞれ単独では強烈な個性ですが、それを無理に同じものへ変えるのではなく、違うまま重ねることで新しいものを作る。
それこそが、本作が描く「ピッチ・パーフェクト」なのではないでしょうか。
役者 ― アナ・ケンドリックの歌声が、ベッカを説得力ある主人公にする
本作で特に驚かされるのが、ベッカを演じるアナ・ケンドリックのパフォーマンスです。
小柄で細身の身体から響く歌声には、想像以上の力強さがあります。
声量があるだけではなく、音程が安定していて、リズムの取り方にも迷いがありません。
そして彼女の良さは、歌唱シーンだけではありません。
ベッカは感情を大げさに表現する人物ではなく、どこか冷めたような表情を見せることが多いキャラクターです。アナ・ケンドリックは、その少し距離を置いた雰囲気と、音楽に触れた瞬間の生き生きとした表情を自然に使い分けています。
だからこそ、ベッカが徐々に仲間を受け入れていく変化にも説得力があります。
そして忘れてはいけないのが、レベル・ウィルソン演じるファット・エイミーです。
彼女が登場するだけで場面の空気が変わるほどの強烈な存在感がありますが、単なるコメディ要員ではなく、ステージではしっかりとパフォーマンスを成立させています。
アンナ・キャンプ演じるオーブリーの生真面目さ、ブリタニー・スノウ演じるクロエの柔らかな存在感、スカイラー・アスティン演じるジェシーの親しみやすさも、それぞれが作品のテンポを支えています。
そしてベン・プラット演じるベンジーも印象的です。
最初は輪の外側にいる彼にも、自分の声を披露する瞬間が訪れます。
そう考えると本作は、ベッカだけではなく、さまざまな人物が「自分の声を出す」物語でもあるのかもしれません。
この映画がおすすめな人
- 音楽映画やミュージカル映画が好きな人
- 洋楽のヒットソングが好きな人
- アカペラやハーモニーを楽しみたい人
- マッシュアップが好きな人
- 女性同士の友情を描いた青春映画が好きな人
- ライバル同士が競い合う物語が好きな人
- 笑えて最後には爽快な気持ちになれる映画を探している人
- 『スクール・オブ・ロック』や『glee/グリー』のように、音楽と青春が融合した作品が好きな人
評価
※評価は執筆時点のものです。
Filmarks:★ 3.8 / 5.0
IMDb:★ 7.1 / 10
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