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名作からコア作品まで、余韻を大切に綴る映画ノート

『ロケットマン(Rocketman)』- 愛されたかった少年が、自分自身を愛せるようになるまで

 

2019年公開の**『ロケットマン(Rocketman)』**は、世界的ミュージシャンであるエルトン・ジョンの人生を描いた伝記ミュージカル映画です。

しかし、本作は一般的な伝記映画とは少し異なります。

時系列を淡々と追うのではなく、エルトン・ジョンの名曲の数々を物語そのものへと溶け込ませ、彼の感情や人生をミュージカルという形で表現しています。現実と幻想が入り混じる演出は、まるで一つの壮大なステージを観ているかのようです。

主演を務めたタロン・エガートンは吹き替えではなく自ら歌唱を担当し、その圧倒的な表現力でエルトン・ジョンという一人の人間を見事に体現しました。

華やかな成功の裏側にあった孤独、依存症、家族との関係、そして再生。

スーパースターの物語であると同時に、「愛されたかった一人の少年」の人生を描いた作品でもあります。

 

あらすじ(ネタバレなし)

きらびやかな悪魔の衣装を身にまとったエルトン・ジョンは、依存症のリハビリ施設でグループセラピーに参加し、自らの人生を語り始めます。

1950年代のイギリス。

本名レジナルド・ドワイトとして生まれた彼は、愛情表現が苦手な母シーラと無関心な父スタンリーのもとで育ちます。一方で祖母アイヴィだけは彼の才能を信じ、音楽への情熱を後押ししてくれました。

幼い頃から卓越したピアノの才能を見せたレジナルドは王立音楽院へ進学し、やがてロックミュージシャンを志します。

「過去を捨て、自分だけの音楽を書け。」

そんな助言を受けた彼は"エルトン・ジョン"という新たな名前を名乗り、音楽プロデューサーのレイ・ウィリアムズを通じて作詞家バーニー・トーピンと運命的な出会いを果たします。

二人が生み出した「Your Song」は世界を魅了し、ロサンゼルス・トルバドゥールでのライブをきっかけにエルトンは一躍スターダムへ。

しかし、成功と比例するように彼の心の孤独は深まり、アルコール、ドラッグ、買い物、そして愛への執着によって次第に自分自身を見失っていきます。

世界中が熱狂したスターは、本当の幸せを見つけることができるのでしょうか。

 

感想

※ここからは作品の核心に触れる内容を含みます。

本作を観るまで、正直なところ私はエルトン・ジョンについて詳しく知っていたわけではありません。「Your Song」くらいしか知らず、代表曲をすべて把握していたわけでもありませんでした。

それでも最後まで強く引き込まれた最大の理由は、やはりタロン・エガートンの圧巻のパフォーマンスです。

歌い、踊り、感情を爆発させながら、それでもどこか寂しそうな表情を見せる。その姿からは「エルトン・ジョンを演じている俳優」というより、「本当にエルトン・ジョンそのもの」が存在しているような説得力がありました。

しかも本作で流れる歌は本人音源ではなく、タロン自身が歌っています。

物まねではなく、自分の歌声でエルトン・ジョンを表現しながらも、その魂や感情だけは驚くほど忠実に再現している。そのバランス感覚は、本当に素晴らしかったです。

本作で最も印象に残ったのは、成功ではなく**「愛されたい」という気持ち**でした。

幼いレジナルドは父に認めてもらいたかった。

母にも愛されたかった。

しかし、彼が何を成し遂げても、その願いはほとんど叶いません。

世界中の何万人もの観客から拍手を浴びても、一番欲しかった親からの一言だけは手に入らない。

だからこそ、恋人ジョン・リードに依存し、アルコールやドラッグへ逃げ込み、買い物や性行為で心の穴を埋めようとしてしまう姿には胸が痛みました。

特に母親から

「あなたは永遠に愛されない。」

と言われる場面は、本作の中でも最も残酷な瞬間だったと思います。

この一言が、彼の自己肯定感をどれほど傷つけ続けたのかを考えると、その後の破滅的な生活も理解できてしまいます。

本作は依存症を美化することはありません。

アルコールもドラッグも成功の代償として描くのではなく、「孤独から逃げるための手段」として描いています。

だからこそ、プールへ飛び込み、自殺を図るシーン

には大きな説得力があります。

そしてリハビリ施設で幼い頃の自分と向き合い、「もう大丈夫だ」と抱きしめるシーン。

あの場面は、本作最大のクライマックスだったのではないでしょうか。

誰かに愛されることを求め続けていた少年が、ようやく自分自身を受け入れ、自分を愛することができた瞬間でした。

終盤で流れる**「I'm Still Standing」**は、単なるヒット曲ではありません。

ラストでは、彼が長年断酒を続け、バーニー・トーピンとは今も親友であり続け、デヴィッド・ファーニッシュと結婚し二人の子どもに恵まれたことが語られます。

豪華な俳優陣の演技ももちろん素晴らしいのですが、やはりタロン・エガートンの存在感は群を抜いています。

数ある音楽伝記映画の中でも、ここまで歌・演技・表現力が高いレベルで融合した作品は決して多くありません。

エルトン・ジョンをよく知る人なら再現度に驚き、私のように詳しく知らない人でも、一人の人間の人生ドラマとして十分に楽しめる作品だと思います。

伝記映画が好きな方にはもちろん、音楽映画や人生を描いたヒューマンドラマが好きな方にもぜひおすすめしたい一本です。

 

演技

本作最大の魅力は、やはりタロン・エガートンです。

エルトン・ジョン本人の歌声を使用せず、自ら歌唱まで担当したことは大きな挑戦でしたが、その歌唱力と表現力は期待をはるかに超えるものでした。華やかなステージと孤独な素顔、その両方を見事に演じ分け、数ある伝記映画の中でも屈指の名演を披露しています。

ジェイミー・ベル演じるバーニー・トーピンは、エルトンの人生における精神的支柱とも言える存在です。恋人ではなく、人生最高の親友だからこそ築ける信頼関係を温かく演じており、二人の友情は本作の大きな感動を支えています。

そしてブライス・ダラス・ハワードが演じる母シーラは、決して悪人ではないものの、息子を深く傷つける人物として強烈な印象を残します。何気ない一言がエルトンの人生を大きく左右していく様子は、観る者の胸にも重く響きます。

 

この映画がおすすめなひと

  • エルトン・ジョンの音楽が好きな方
  • 音楽伝記映画が好きな方
  • 『ボヘミアン・ラプソディ』が好きだった方
  • ミュージカル映画が好きな方
  • 人生の再生を描いた物語に心を動かされる方
  • タロン・エガートンの演技を堪能したい方
  • 実話をもとにした映画が好きな方

評価

※評価は執筆時点のものです。

Filmarks:★★★★☆ 3.7 / 5.0

IMDb:★★★★★★★☆☆☆ 7.3 / 10

 

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