Cinematelier ─ 映画のアトリエ

名作からコア作品まで、余韻を大切に綴る映画ノート

『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方(The Apprentice)』― 不安は、やがて権力へと変わる

 

「なぜ、あの人物は生まれたのか」

この映画は、単なる伝記ではありません。
現在の世界に大きな影響を与え続けているドナルド・トランプという存在を、「結果」ではなく「過程」から描き出そうとする作品です。

1970年代のニューヨーク。
まだ何者でもなかった一人の青年が、ある男と出会い、価値観を、倫理を、そして自分自身の輪郭を変えていく――。

本作『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』は、「成功とは何か」「勝つとはどういうことか」という問いを、極めて歪んだ形で突きつけてくる一作です。

 

あらすじ(ネタバレなし)

『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方(The Apprentice)』は、1970年代から1980年代のニューヨークを舞台に、若きドナルド・トランプが成功へと駆け上がっていく過程を描いた映画です。

気弱で繊細な一面を持ちながらも、成功への強い野心を抱く青年トランプは、悪名高き弁護士ロイ・コーンと出会います。

彼の指導のもと、トランプはビジネスの世界で頭角を現していきますが、その成功の裏側には、倫理や真実をも踏み越える危うい価値観がありました。

やがて彼は、師であるコーンすらも凌ぐ存在へと変貌していきます――。

 

感想・考察

※ここからは作品の核心に触れる内容を含みます。

まず強く感じたのは、「再現」ではなく「成立」を見せる映画だという点です。

セバスチャン・スタンが演じるトランプは、外見的には決して完全に似ているわけではありません。
しかし、口元の癖や表情の作り方、言葉のリズム――そうした細部が積み重なることで、「似ている」ではなく「その人に見えてくる」瞬間が何度も訪れます。
これは単なるモノマネではなく、“人格の再構築”に近い演技だったと思います。

そして、もう一人の主人公と言ってもいいほどに強烈なのが、ジェレミー・ストロング演じるロイ・コーンです。
彼の恐ろしさは、怒鳴ったり暴れたりするタイプのものではありません。
むしろ、静かに、確実に相手を支配していく“思想そのもの”にあります。

彼が教える「三箇条」
・攻撃し続けろ
・すべてを否定しろ
・絶対に負けを認めるな

これは単なるビジネス戦略ではなく、「世界の捉え方」そのものです。
そして恐ろしいのは、トランプがそれを“戦略として”ではなく“信念として”取り込んでしまうことです。

この映画が優れているのは、「トランプは最初から怪物だった」とは描かない点にあります。
むしろ最初は、父に認められたい、成功したいという、どこにでもいるような青年として描かれています。

だからこそ、変化が恐ろしい。

ロイ・コーンという存在は、単なる師匠ではなく、「倫理を捨てても勝つ」という価値観の具現化です。
そしてトランプは、その思想を学び、やがてそれを“自分のもの”にしてしまう。

さらに皮肉なのは、その関係が最終的に逆転することです。
師であるコーンが衰弱し、孤立していく一方で、トランプはその教えを利用して、さらに大きな存在へと上り詰めていく。

つまり「アプレンティス(見習い)」は、単なる弟子では終わらない。
師の思想を継承し、より純度の高い形で体現してしまう存在になるのです。

この構造が、本作の最も恐ろしい部分だと感じました。

また、容姿への異常な執着(脂肪吸引や頭皮手術)や、私生活での歪んだ関係性なども描かれており、
そこから見えてくるのは「強さ」ではなく、むしろ強烈なコンプレックスです。

つまりこの映画は、成功者の物語ではなく――
「不安と劣等感が、権力という形を取った結果」を描いた作品なのかもしれません。

決して気持ちのいい映画ではありません。
しかし、「なぜあの人物が生まれたのか」を理解するという意味では、非常に価値のある一本でした。

 

印象に残った台詞・シーン

ドナルド・トランプが教わった三箇条

「俺には3つのルールがある。勝つためのルールだ」

①「攻撃しろ、攻撃し続けろ」

②「すべてを否定しろ、何も認めるな」

③「絶対に負けを認めるな。常に勝利を主張しろ」

この台詞は、単なるセリフではなく、この映画そのものを象徴する“思想”です。
そして同時に、現実世界へと繋がっていく言葉でもあります。

 

演技

セバスチャン・スタンは、外見の模倣ではなく「存在の再現」に成功していました。
特に後半になるにつれて、完全に“トランプに見えてしまう”瞬間が増えていき、その変化の過程すら演技で表現している点が見事です。

一方で、ジェレミー・ストロングは静かな狂気を体現しています。
怒鳴るわけでもなく、暴力的でもない。
それでも確実に恐ろしい――そんな“支配する人間”のリアリティを生み出していました。

二人の演技の対比が、この作品の緊張感を支えています。

 

この映画がおすすめなひと

・人物の“成り立ち”に興味がある方
・社会や権力の構造に関心がある方
・実在の人物を題材にした作品が好きな方
・重めでも考えさせられる映画を観たい方

 

評価

・Filmarks:★☆ 3.7 / 5.0
・IMDb:★☆ 7.1 / 10

 

視聴情報(サブスクリプション)

※配信状況は変わる場合があります。

・U-NEXT(レンタル)

・Amazon Prime Video

 

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