2006年に公開され、多くの人にとって“お仕事映画の金字塔”となった『プラダを着た悪魔』。
ファッション業界の華やかさと過酷さ、そして“働くこと”の喜びと犠牲を描いたあの作品が、20年の時を経て帰ってきました。
続編というものは、期待が大きいほど難しい。
特に前作があまりにも完成されていた場合、その壁を超えることは簡単ではありません。
しかし今作は、単なる懐かしさだけに頼ることなく、“現代”という時代そのものを物語に組み込むことで、前作とは違う魅力を持った作品へと進化していました。
紙媒体の衰退、クリック至上主義、キャンセルカルチャー、AI時代への不安。
20年前には存在しなかった問題を抱えながら、それでもなおファッション業界の最前線で戦い続けるミランダたちの姿は、かつて以上に“現実”を感じさせます。
そして何より、この作品は“再会”の映画でした。
ミランダ、アンディ、エミリー、ナイジェル。
彼らの関係性をもう一度見られるだけで、胸が熱くなる一本です。
あらすじ(ネタバレなし)
かつてファッション雑誌『ランウェイ』で鬼編集長ミランダ・プリーストリーのアシスタントとして働いていたアンドレア・サックス、通称アンディ。
あれから20年。彼女はニューヨークで記者として確かなキャリアを築いていました。
しかしある日、職を失ったアンディは、思いもよらない形で再び『ランウェイ』へ戻ることになります。
一方、『ランウェイ』は紙媒体離れやSNS時代の波に押され、存続の危機に立たされていました。
絶対的存在だったミランダもまた、変わり続ける時代への対応を迫られていたのです。
さらに、かつての同僚エミリーはラグジュアリーブランドの幹部へと成長し、『ランウェイ』の未来を左右する重要人物になっていました。
懐かしい再会の裏で、それぞれの立場と思惑が交錯していく中、ファッション業界を揺るがす大きな決断が迫られていきます。
これは、“成功したその後”を描いた物語。
そして、“働き続けること”の意味を改めて問いかける続編です。
感想・考察(ネタバレあり)
※ここからは作品の核心に触れる内容を含みます。
今作は、前作から20年という節目の年に公開され、「本当に続編を作る意味があるのか」という不安と期待が非常に大きかった作品でした。
ですが、個人的には驚くほど楽しめた作品であり、むしろ前作以上に刺さる部分も多かった一本でした。
前作の『プラダを着た悪魔』は、“憧れの世界に飛び込む若者”の物語でした。
しかし今作は、“その世界で生き残った人間たち”の物語になっています。
だからこそ、20年という時間の重みがしっかり作品に宿っていました。
特に印象的だったのは、今のマスメディアや紙媒体の厳しい現状を真正面から描いていたことです。
クリック数重視の短尺コンテンツ、SNS時代の炎上、リストラ、そしてAIによる価値観の変化。
ファッション映画でありながら、現代社会そのものを映し出している作品になっていました。
前作では絶対的支配者のようだったミランダも、今作では“時代に適応しようとしている人間”として描かれています。
もちろん厳しさは変わりません。
けれど、露骨なパワハラができなくなっていたり、キャンセルカルチャーの時代を意識していたりと、“無敵だった悪魔ですら時代には逆らえない”ことがわかるのです。
その中で特に良かったのが、ミランダの“人間味”でした。
アンディが暴露本を書こうとしていることを知りながら、「書きなさい」と背中を押すシーン。
そして、自分がどれだけ子どもたちとの時間を犠牲にしてきたかまで含め、「人は代償を知るべき」と語る場面は、前作にはなかった深みを感じさせました。
彼女は決して“優しい人”になったわけではありません。
けれど、自分の人生の功罪を理解したうえで、それでも仕事を愛している。
その複雑さが本当に魅力的でした。
また、ナイジェルの存在感も素晴らしかったです。
前作でもアンディとの関係性は大好きなポイントでしたが、今作では最初から信頼関係が築かれているため、二人のやり取りを見ているだけで安心感がありました。
そして終盤、アンディを再び『ランウェイ』へ推薦していたのがナイジェルだったと明かされるシーン。
「“Forever my girl.”(君は永遠に私の秘蔵っ子だ)」とウィンクする場面は、間違いなく今作最大のハイライトだったと思います。
このシーンだけでも、この映画を観た価値があったと思えるほどでした。
一方で、少し気になったのはエミリーの立ち位置です。
途中まで“敵側”に回るような構図になっていたため、少し当て馬的にも感じてしまいました。
ただ、最後にはアンディと和解し、友情を取り戻せたことで救われましたし、エミリー自身もまた“この業界を生き抜いた人間”として描かれていたのは良かったです。
そして今作が成功している最大の理由は、“前作をなぞるだけでは終わらなかった”ことだと思います。
洋服を貸してもらうシーンや、ミランダの登場演出など、ファンが喜ぶ要素はしっかり押さえつつ、そこに現代的な社会問題や価値観の変化を加えることで、単なる懐古作品にはしていませんでした。
また、前作よりも恋愛描写が見やすくなっていたのも個人的には好印象でした。
ピーターやスチュアートは、アンディたちの仕事を否定するのではなく、理解しようとしてくれる存在として描かれており、ここも時代のアップデートを感じたポイントです。
さらに、レディー・ガガ本人が出演し、しっかり“演技”と“パフォーマンス”を見せているのも非常に印象的でした。
あの圧倒的スター性は、今のファッション業界の象徴のようでもありました。
もちろん、人によってはアジア人描写など気になる部分もあるかもしれませんし、期待値が高すぎたぶん賛否が出るのも理解できます。
ですが、今の時代にこの続編を作るなら、これが最も誠実で現実的な形だったのではないかと思います。
だからこそ、前作を神格化しすぎず、“20年後の彼女たちに会いに行く”くらいの気持ちで観ると、とても楽しめる作品だと思います。
印象に残った台詞・シーン・トリビア
・レディー・ガガ本人が本人役として出演し、『ランウェイ』のショーでパフォーマンスを披露するシーン。実はこの出演は、メリル・ストリープ本人から直接電話でオファーを受けたことで実現したそうです。エミリー・ブラントもプロモーションインタビュー中にその事実を知ったとのことで、作品外でも“ミランダの影響力”を感じさせる逸話でした。
・ミランダがエミリーに放つ言葉。
“「あなたには足りないの。残念だけど、あなたはビジョナリーじゃない。ただの売り手よ」”
このシーンはかなり残酷ですが、同時にミランダが“ファッション”を単なる商売としてではなく、“創造”として見ていることがわかる瞬間でもありました。
・ナイジェルがアンディを抱きしめ、ウィンクをするシーン。
“「Forever my girl.」”
(「君は永遠に私の秘蔵っ子だ」)
前作から続く二人の関係性が、ここで一気に報われる最高のシーンでした。
演技
Meryl Streep(ミランダ・プリーストリー役)
やはり圧巻でした。
前作では“恐怖”として君臨していたミランダを、今作では“時代に取り残されかける絶対者”として演じています。
ほんの少し疲れた表情や、一瞬見せる弱さ。
それでもなお周囲を支配する存在感は失われておらず、メリル・ストリープだからこそ成立するキャラクターだったと思います。
Anne Hathaway(アンドレア・サックス役)
前作のアンディは“社会に飛び込む若者”でしたが、今作では完全に“大人のキャリア女性”になっていました。
ただ、それでも理想主義的な部分は失われておらず、その理想がミランダに影響を与えていたという構図がとても良かったです。
アン・ハサウェイ自身の成熟も含めて、20年後のアンディに説得力を与えていました。
Emily Blunt(エミリー・チャールトン役)
前作以上に“戦う女性”としての魅力が増していました。
エミリーは今作でかなり現実的な立場に置かれていますが、その中でもプライドを失わずに生き抜いている姿が印象的でした。
アンディとの再会シーンでは、過去の空気感がそのまま残っていて、ファンとしては嬉しかったです。
Stanley Tucci(ナイジェル役)
今作の“心”を担っていたのは間違いなくナイジェルでした。
毒舌でありながら、誰よりもアンディを見守っている。
その絶妙な距離感は今回も健在で、スタンリー・トゥッチの温かさが作品全体を支えていたように感じます。
特に終盤のシーンは、本当に胸に響きました。
“働く”ということは、誰かを犠牲にすることなのか
『プラダを着た悪魔2』は、華やかなファッション映画でありながら、“仕事に人生を捧げること”の光と影を描いた作品でした。
成功、キャリア、情熱。
それらは確かに美しい。
けれど同時に、失ってしまうものもある。
それでもミランダは仕事を愛していると言う。
そしてアンディもまた、その世界から完全には離れられなかった。
だからこそ、この作品は単なる続編ではなく、“20年後の答え合わせ”のようにも感じました。
前作を好きだった人ほど、ぜひ肩の力を抜いて観てほしい一本です。
彼女たちは20年後も、まだ戦い続けていました。
この映画がおすすめなひと
・前作『プラダを着た悪魔』が好きだったひと
・お仕事映画が好きなひと
・ファッション業界の裏側に興味があるひと
・キャリアと人生のバランスについて考えたいひと
・“続編だからこそ描ける物語”を観たいひと
評価
※評価は執筆時点のものです。
・Filmarks:★☆4.1 / 5.0
・IMDb:★☆6.8 / 10
視聴情報
※配信状況は変わる場合があります。
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