人は、自分の記憶をどこまで信じられるのだろうか。
『ガール・オン・ザ・トレイン』は、アルコール依存症によって記憶を失う女性を中心に、“見えているもの”と“実際に起きていること”のズレを描いたサスペンス作品です。
日常の風景の中に潜む違和感と、少しずつ明らかになっていく真実。その過程は、観る者の認識すら揺さぶってきます。
あらすじ(ネタバレなし)
職も結婚も失ったレイチェルは、毎日のように電車に乗り、かつての生活や近所の夫婦の暮らしを眺めることで、現実から逃避していました。
ある日、彼女が理想だと思っていた夫婦の“裏側”を目撃したことをきっかけに、日常は一変します。
やがてその女性が失踪し、レイチェルは事件に関与しているのではないかと疑われることに。
しかし彼女自身、断片的な記憶しか持っておらず、「何を見たのか」「何をしてしまったのか」すら分からないまま、真相へと近づいていきます。
感想・考察
※ここからは作品の核心に触れる内容を含みます。
この作品の本質は、「どんでん返し」そのものではなく、“記憶という不確かなものを通して世界を見る怖さ”にあると感じました。
まず前提として、レイチェルという人物は決して“信頼できる語り手”ではありません。アルコール依存症によるブラックアウトによって、彼女の記憶は常に欠落し、断片的で、しかもそれが本人にも自覚できていない。
この設定が巧妙なのは、観客もまた彼女の視点に縛られることです。
つまり、私たちは彼女と同じように「見えているつもりで、実は何も見えていない」状態に置かれているのです。
物語はスコットやアブディック医師といった“いかにも怪しい人物”に疑いを向けながら進みます。スコットの攻撃的な態度や、アブディック医師という“秘密を知りすぎている存在”は、サスペンスとして非常に分かりやすいミスリードです。
しかし、最終的に真相として浮かび上がるのは、最も身近で、そして一見すると“普通”に見える存在であるトムでした。
ここにこの作品の怖さがあります。
トムは、レイチェルのブラックアウトという弱点を利用し、彼女に虚偽の記憶を植え付けていました。
「あなたは酔って暴れていた」
「あなたが問題を起こした」
そう繰り返し言われることで、レイチェル自身が“そうだったのかもしれない”と信じ込んでしまう。
これは単なるサスペンスの仕掛けではなく、非常に現実的な“支配の構造”です。
記憶を奪うこと、あるいは歪めることは、その人の「自己認識」を奪うことでもあります。
レイチェルは、自分が何をしたのか分からないまま、「自分は危険な人間なのではないか」と思い込まされていく。
その恐怖は、殺人そのものよりもむしろ生々しく感じられます。
さらに興味深いのは、女性キャラクターたちの描かれ方です。
メガンは、一見すると奔放で不倫を繰り返す人物として描かれますが、その裏には過去のトラウマや罪の意識があり、決して単純なキャラクターではありません。
アナもまた、最初は“略奪した側”として冷たい印象を受けますが、最終的にはトムの本性に直面し、レイチェルと同じ側に立つことになります。
つまりこの作品は、男性による支配や欺瞞の構造の中で、それぞれ異なる形で傷ついてきた女性たちの物語でもあるのです。
そしてラスト。
レイチェルとアナがトムを殺害する展開は、確かに正当防衛として描かれています。
しかし同時に、二人は口裏を合わせて真実を“整えている”とも言えます。
ここで問いかけられるのは、「真実とは何か」ということです。
トムが加害者であることは揺るぎませんが、最終的に語られる“物語”は、彼女たちにとって都合のいい形に編集されている可能性もある。
つまりこの作品は、
・記憶は信用できるのか
・語られる真実は本当に真実なのか
という二重の問いを投げかけてきます。
そして最後に、電車の座席に座るレイチェルの姿。
かつては“誰かの人生を覗き見る側”だった彼女が、今度は前を向いて座っている。
この変化は、彼女がようやく「自分の人生を生きる側」に戻ったことを象徴しているようにも見えます。
ただし、その先に完全な救いがあるとは限りません。
それでもなお進んでいくしかない。
この余韻の苦さこそが、『ガール・オン・ザ・トレイン』という作品の核なのだと思います。
印象に残ったポイント
・記憶の不確かさをそのまま構造に組み込んだストーリー
・視点の偏りによって変わる“真実”
・女性たちがそれぞれ異なる強さを持って描かれている点
演技
レイチェルを演じた エミリー・ブラント の演技は圧巻です。
アルコール依存による不安定さ、自己嫌悪、そして徐々に真実へと近づいていく過程を繊細に表現しており、観客の共感と不信感の両方を同時に引き出します。
また、
レベッカ・ファーガソン、
ヘイリー・ベネット、
ジャスティン・セロー といったキャストも、それぞれの立場から物語に厚みを加えています。
この映画がおすすめなひと
・どんでん返し系サスペンスが好きな人
・信頼できない語り手の物語に惹かれる人
・心理的な怖さを味わいたい人
評価
※評価は執筆時点のものです。
・Filmarks:★☆ 3.4 / 5.0
・IMDb:★☆ 6.5 / 10
視聴情報(サブスクリプション)
※配信状況は変わる場合があります。
※この記事にはAmazonアソシエイトのリンクが含まれています。
・U-NEXT
・Amazon Prime Video(レンタル)
関連商品
※価格は変動する場合があります。
※この記事にはAmazonアソシエイトのリンクが含まれています。

![ガール・オン・ザ・トレイン [Blu-ray] ガール・オン・ザ・トレイン [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51q72LtleGL._SL500_.jpg)