Cinematelier ─ 映画のアトリエ

名作からコア作品まで、余韻を大切に綴る映画ノート

『グレイテスト・ショーマン(The Greatest Showman)』―喝采の向こうで、本当に大切なものを見つけるまで

 

夢を見ることは美しい。

けれど、その夢が叶い始めたとき、人はどこまで満足できるのでしょうか。

もっと大きな舞台へ。もっと多くの観客へ。もっと大きな喝采へ。そして、自分を見下してきた人々からも認められる場所へ。

『グレイテスト・ショーマン(The Greatest Showman)』は、19世紀に活躍した興行師P・T・バーナムをモデルに、貧しい少年がショービジネスの世界で成功していく姿を描いたミュージカル映画です。

主演はヒュー・ジャックマン。ザック・エフロン、ミシェル・ウィリアムズ、レベッカ・ファーガソン、ゼンデイヤ、キアラ・セトルら豪華なキャストが集結しています。

そして何より、この映画を忘れがたいものにしているのが音楽です。

次々と繰り広げられる歌とダンスには圧倒的なエネルギーがあり、物語そのものを前へ前へと押し進めていきます。

ただし、この映画は単純な成功物語ではありません。

バーナムは、社会から隠れるように暮らしていた人々を舞台へ連れ出し、彼らが喝采を浴びる場所を作ります。その一方で、彼らの身体的特徴を「見世物」として利用し、自分がさらに上の社会へ行くために彼らを遠ざけてしまうこともあります。

夢を追いかける力と、その夢によって見えなくなっていくもの。

華やかなショーの裏側には、「成功とは何なのか」「誰かに認められることは、本当に幸せなのか」という問いが隠されています。

 

あらすじ(ネタバレなし)

貧しい家庭に生まれたP・T・バーナムは、幼い頃から豊かな想像力を持つ夢想家でした。

やがて良家の娘チャリティと結婚し、二人の娘にも恵まれます。裕福とはいえないものの家族との穏やかな生活を送っていたバーナムでしたが、彼の胸の中には「いつか大きなことを成し遂げたい」という思いがありました。

そんな中、勤務していた会社が倒産し、職を失ってしまいます。

しかし、そこで立ち止まらないのがバーナムでした。

銀行から資金を借り、「バーナム博物館」を開業します。しかし、珍しい展示物を並べただけの博物館には思うように客が集まりません。

そこで娘たちの言葉からヒントを得たバーナムは、これまでとはまったく違うショーを思いつきます。

小人症の男性、髭を生やした女性、大柄な男性、空中ブランコの兄妹など、身体的特徴や出自を理由に世間から好奇の目を向けられ、隠れるように生きてきた人々を集めたのです。

彼らを主役にしたショーは瞬く間に評判となり、バーナムは興行師として成功への階段を駆け上がっていきます。

しかし、人気が高まるほど批判も激しくなり、劇場の前には彼らを「街の恥」と罵る人々まで集まるようになります。

そんな中、バーナムは上流階級出身の劇作家フィリップ・カーライルを仲間に迎えます。

フィリップの人脈によってヴィクトリア女王への謁見まで果たしたバーナムは、そこで世界的な歌手ジェニー・リンドと出会います。

彼女の歌声を聴いたバーナムは、これこそ自分が上流社会から認められるための機会だと考え、彼女のアメリカ公演を企画します。

貧しい少年だった自分を見下した人々に認めさせたい。

家族にもっと豊かな暮らしをさせたい。

そして、自分自身が「価値のある人間」であることを証明したい。

バーナムの夢は、次第に大きくなっていきます。

しかし、その夢を追えば追うほど、彼は自分のすぐそばにあった大切なものから離れていくのでした。

 

感想

※ここからは作品の核心に触れる内容を含みます。

『グレイテスト・ショーマン』は、P・T・バーナムの成功を描いた華やかなミュージカル映画です。

しかし観終わって印象に残るのは、単なる「夢を諦めなければ成功できる」という物語ではありません。

むしろこの映画で描かれているのは、夢を叶えた人間が、それでも満たされなかった物語なのではないでしょうか。

バーナムはとにかく行動します。

会社を解雇されても立ち止まらず、資金を調達して博物館を作り、それがうまくいかなければ新しいアイデアを考えます。

普通なら一度の失敗で諦めてしまいそうなところでも、彼は次の手を考え続けます。

その行動力は本当にすごいと思います。

ところが、サーカスが大成功しても、彼は満足しません。

なぜでしょうか。

おそらくバーナムが本当に欲しかったものは、お金でも満員の客席でもなかったからです。

彼が求めていたのは、自分を見下してきた世界からの承認だったのだと思います。

幼い頃、貧しい仕立屋の息子だった彼は、チャリティの父親から見下されます。

大人になって成功してからも、上流社会から見れば彼は「成り上がり者」でしかありません。

だからこそバーナムは、どれだけ成功しても「まだ足りない」と感じ続けます。

ジェニー・リンドとの出会いは、その欲望を決定的にしてしまいます。

サーカスではなく、上流階級にも認められる「本物の芸術」を成功させれば、自分もようやく彼らと同じ場所へ行ける。

しかし皮肉なのは、彼が上へ行こうとすればするほど、最初に自分を成功へ導いてくれた人々を置き去りにしてしまうことです。

この映画で最も複雑なのが、バーナムとサーカス団員たちの関係です。

バーナムは、身体的特徴などを理由に社会から差別され、隠れるように暮らしていた人々を探し出します。

そして彼らを舞台に立たせます。

それによって彼らは初めて大勢の観客から拍手を浴び、自分たちの存在を堂々と示せるようになります。

これは確かに素晴らしいことです。

しかし一方で、バーナムが最初から純粋に彼らの尊厳のために行動していたかといえば、そうとも言い切れません。

彼は「珍しい人々」を集めれば客が来ると考えました。

つまり彼らを救おうとしたというより、最初はビジネスとして利用した面もあったはずです。

だからこそ、この物語は面白いのだと思います。

バーナムは完全な善人ではありません。

人を惹きつける才能があり、夢を形にする力がある一方で、成功のためなら危うい方法も選びます。

そして自分が上流社会に近づいた途端、今度はサーカスの仲間たちを恥じるような態度さえ取ってしまいます。

彼らを「隠れている場所」から連れ出した人物が、今度は彼らを扉の外に置いてしまう。

この矛盾こそが、バーナムという人物の危うさをよく表していました。

そんな団員たちが歌うのが、キアラ・セトル演じるレティを中心とした「This Is Me」です。

この場面は何度観ても圧倒されます。

彼らは、それまでずっと他人の視線によって自分自身を決められてきました。

「普通ではない」

「醜い」

「隠れているべきだ」

そんな社会の価値観によって、自分の存在そのものを否定され続けてきた人たちです。

しかし、ここで彼らは自分たちから扉を開けます。

「This is me.」

「これが私だ」

誰かに認めてもらうためではありません。

バーナムに認めてもらうためですらありません。

自分が自分自身を認めるために、彼らは歩き出します。

この瞬間、彼らはバーナムのショーに出演する「見世物」ではなく、自分自身の人生の主人公になります。

だから「This Is Me」は単なる劇中歌ではなく、この映画が伝えようとしているメッセージそのものになっているのだと思います。

そして、この映画のもう一つの重要な曲が「Never Enough」です。

ジェニー・リンドが歌うこの曲のタイトルは、

「Never enough.」

「決して満たされない」

という意味を持っています。

劇中ではジェニーの歌ですが、この言葉こそバーナム自身を表しているようにも感じます。

サーカスが成功しても足りない。

お金を手に入れても足りない。

家を手に入れても足りない。

上流階級と交流できても足りない。

批評家に認められても、まだ足りない。

その欲望の先で、バーナムはサーカスも家も家族も失ってしまいます。

彼がようやく気づくのは、すべてを手に入れた瞬間ではなく、すべてを失った瞬間でした。

ミシェル・ウィリアムズ演じるチャリティは、バーナムとは対照的な人物です。

バーナムは常に「もっと上」を見ています。

しかしチャリティは、今ここにある幸せを見ることができます。

夫がいて、娘たちがいて、家族で笑うことができる。

それで十分だったのです。

バーナムは家族のために成功したいと思っていました。

しかしいつしか「家族のため」という目的が、「自分が認められるため」にすり替わってしまいます。

その結果、最も幸せにしたかったはずの家族を傷つけてしまいます。

チャリティが怒ったのは、単純にジェニーとのキスだけではなかったのでしょう。

彼女はずっとバーナムと一緒に夢を追ってきました。

貧しくても、不安定でも、二人ならよかった。

しかしバーナムはいつの間にか一人で走り始めてしまったのです。

物語の最後、バーナムはフィリップにショーマンの座を譲ります。

そして娘のバレエの発表会へ向かいます。

映画の冒頭なら、バーナムは舞台の中央に立っていたでしょう。

大勢の観客。

スポットライト。

喝采。

それこそが成功だと思っていたからです。

しかし最後に彼が選んだのは、客席でした。

娘が立つ舞台を、チャリティの隣で見守ること。

それは一見すると小さな変化ですが、バーナムにとっては非常に大きな変化です。

世界中から拍手されることより、大切な人のそばにいること。

映画の最後に彼がようやくたどり着いた「成功」は、最初から彼のすぐそばにあったのだと思います。

 

演技

ヒュー・ジャックマン/P・T・バーナム

この作品は、ヒュー・ジャックマンの存在なしには成立しなかったのではないかと思うほど、彼の魅力が詰まっています。

歌、ダンス、表情、そして観客を引き込むスター性。

バーナムにはかなり身勝手な部分もありますが、それでも完全に嫌いになれないのは、ヒュー・ジャックマンが持つ人間的な温かさによるところも大きいと思います。

特に「The Greatest Show」で見せるショーマンとしての圧倒的な存在感は見事です。

ザック・エフロン/フィリップ・カーライル

上流社会の安全な世界に生きていたフィリップが、バーナムと出会ったことで少しずつ自分の人生を選び始めます。

「The Other Side」でヒュー・ジャックマンと掛け合う場面はテンポが良く、二人の魅力が存分に発揮されています。

一方でゼンデイヤとの「Rewrite the Stars」では、華やかなショーとは違う繊細さも見せています。

ミシェル・ウィリアムズ/チャリティ・バーナム

派手な登場人物が多い作品の中で、チャリティは静かな存在です。

しかし、実はこの映画の価値観を支えている重要な人物でもあります。

バーナムが「まだ足りない」と上ばかりを見続ける一方で、チャリティは目の前にある幸せを大切にしています。

ミシェル・ウィリアムズの穏やかな演技が、華やかな映画に人間的な温度を与えていました。

レベッカ・ファーガソン/ジェニー・リンド

レベッカ・ファーガソンが演じるジェニー・リンドには、サーカスとはまったく違う「正統派」の華やかさがあります。

ステージに立った瞬間に空気が変わるような存在感があり、バーナムが彼女に可能性を感じることにも説得力があります。

なお、ジェニーの歌唱部分はローレン・アレッドが担当しています。

「Never Enough」の圧倒的な歌声は、本作を代表する音楽シーンの一つです。

キアラ・セトル/レティ・ルッツ

そして忘れられないのがキアラ・セトルです。

最初は人前に出ることさえためらっていたレティが、やがて仲間たちの先頭に立って歩いていく。

その変化を象徴する「This Is Me」は、本作最大の見せ場と言ってもいいでしょう。

力強い歌声だけではなく、そこに込められた怒り、痛み、誇りが伝わってきます。

バーナムの成功以上に、彼女たちが「自分自身であること」を受け入れていく姿こそ、この映画のもう一つの大きな物語だったと思います。

 

この映画がおすすめなひと

・音楽を中心に楽しめるミュージカル映画が好きな人
・ヒュー・ジャックマンの歌やダンスを堪能したい人
・「This Is Me」「Never Enough」などの楽曲が好きな人
・夢や成功を追いかける物語が好きな人
・自分らしく生きることをテーマにした作品が好きな人
・家族や仲間とのつながりを描いた映画が好きな人
・華やかでテンポの良い映画を観たい人
・ミュージカル映画をあまり観たことがない人にもおすすめです

 

評価

※評価は執筆時点のものです。

Filmarks:★ 4.1 / 5.0
IMDb:★ 7.5 / 10

 

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