家族とは何でしょうか。
血のつながりでしょうか。それとも、一緒に過ごした時間でしょうか。
『キッズ・オールライト』は、同性カップルとその子どもたちという、2010年当時としてはまだ珍しかった家族の姿を描いたヒューマンドラマです。
LGBTQ+をテーマにした作品ではありますが、本作が描いているのは「同性カップルだから起こる問題」だけではありません。
長年連れ添った夫婦のすれ違い、思春期の子どもが抱えるアイデンティティへの疑問、誰かに認められたいという気持ち――それらはどんな家族にも起こり得る、とても普遍的な物語です。
アネット・ベニング、ジュリアン・ムーア、マーク・ラファロという実力派俳優が織り成す温かな会話劇は、笑いと切なさを絶妙なバランスで描き、多くの映画賞でも高く評価されました。
あらすじ(ネタバレなし)
カリフォルニア州ロサンゼルス。
産婦人科医として働くニックと、造園デザインの仕事を始めようとしているジュールズは、長年連れ添うレズビアンカップルです。
二人は同じ精子提供者から子どもを授かり、娘ジョニと息子レイザーを育てながら穏やかな家庭を築いていました。
やがて18歳になったジョニは、15歳の弟レイザーに頼まれ、精子バンクを通じて二人の生物学上の父親を探します。
紹介されたのは、レストランを経営する自由奔放な男性ポール。
最初は軽い気持ちだった出会いでしたが、子どもたちはポールに惹かれ、やがて彼は家族の生活へ少しずつ入り込んでいきます。
しかし、その出会いは今まで安定していた家族の関係に思いもよらぬ変化をもたらしていくのでした。
感想
※ここからは作品の核心に触れる内容を含みます。
この作品は、一見するととても地味なヒューマンドラマです。
派手な事件も、大きなサスペンスもありません。
それでも観終わったあとに心へ残るものは非常に大きく、個人的にはとても好きな作品になりました。
マーク・ラファロやジュリアン・ムーア、アネット・ベニングという豪華俳優陣が出演していますが、スター映画というよりは、それぞれが「本当にその家族として存在している」ような自然な演技を見せてくれます。
本作は同性カップルの家族を描いていますが、決してLGBTQ+だけの物語ではありません。
「子どもは自分のルーツを知りたくなるものなのか。」
「親とは何なのか。」
「長年一緒にいる夫婦はどうすれば関係を維持できるのか。」
こうしたテーマは、誰にとっても身近なものです。
レイザーが父親に会いたがる気持ちは決して母親たちを否定しているわけではありません。
ただ、自分がどこから来たのかを知りたい。
その純粋な好奇心は、多くの人が理解できる感情ではないでしょうか。
だからこそ、子どもたちがポールに惹かれていく姿にも違和感はありません。
自由で自然体なポールは、これまで家族には存在しなかったタイプの大人でした。
しかし、本作が面白いのは「血のつながりがあるから父親になれる」とは描かないところです。
ポールは善人です。
子どもたちにも優しく、決して悪意のある人物ではありません。
ですが、ジュールズとの関係を深め、「家族ごと自分のもとへ来ればいい」と考えてしまうあたりに、彼の未熟さや無知さが見えてきます。
彼は家族というものを理解していませんでした。
長年積み重ねてきたニックとジュールズの歴史を、自分の存在だけで置き換えられると思ってしまったのです。
この作品では様々な"無知さ"が描かれています。
ポールの無知。
ジュールズの寂しさ。
ニックの頑固さ。
子どもたちの理想。
誰も完全な悪人ではありません。
それぞれが少しずつ間違え、その積み重ねが家族を揺るがしていきます。
特にジュールズの不倫は決して肯定できるものではありません。
しかし彼女が口にする、
「私はストレートになったわけじゃない。ただ誰かに認めてもらいたかった。」
という本音は、とても切なく感じました。
ニックは家族を守るために厳しくなり過ぎてしまい、ジュールズはその中で自分の存在価値を見失っていました。
ポールは、そんな彼女を素直に褒めてくれた。
その一瞬の承認が、彼女の心を揺らしてしまったのです。
もちろん、それで不倫が許されるわけではありません。
それでも人間は時として、ほんの少しの優しさに弱くなってしまうものなのだと、この映画は非常にリアルに描いています。
もしかすると、子どもたちが父親を探さなければ、この家族は崩れなかったのかもしれません。
しかし逆に言えば、この出来事があったからこそ、それぞれが本当に大切なものに気付けたとも言えます。
ラストでジョニを大学へ送り届ける場面は、とても静かですが印象的です。
家族には欠点があります。
過ちもあります。
裏切りもあります。
それでも、それらを乗り越えようとする意志がある限り、家族であり続けられる。
ニックとジュールズが手を重ねるラストシーンは、「すべて解決した」という終わり方ではありません。
これからまた少しずつ関係を築き直していく。
そんな希望が感じられる締めくくりでした。
この映画は様々な社会問題を扱いながらも、決して重苦しくなりすぎません。
物事を少し簡単に描いている部分もありますが、それ以上に役者たちの自然な演技と温かな空気感が作品全体を包み込み、とても心地よい一本になっています。
派手さはありませんが、人間ドラマが好きな方にはぜひ観ていただきたい作品です。
演技
本作は何よりキャスト陣の演技力が素晴らしい作品です。
アネット・ベニングは、家族を守ろうとする責任感と不安を抱えるニックを圧倒的な存在感で演じています。強く見える一方で、とても繊細な人物像を見事に表現していました。
ジュリアン・ムーアは、自分を認めてもらいたいという寂しさを抱えるジュールズを非常に人間らしく演じています。彼女だからこそ、不倫という行為に至る葛藤にも説得力が生まれていました。
マーク・ラファロは、自由人でありながら未熟でもあるポールを魅力的に演じています。嫌いになれない人物だからこそ、この物語は単純な善悪では終わりません。
ミア・ワシコウスカは、大人へと成長していく娘ジョニを自然体で演じ、旅立ちのシーンでは静かな感動を残します。
ジョシュ・ハッチャーソンも思春期特有の揺れる感情を繊細に表現しており、家族の変化に戸惑う少年の姿がとても印象的でした。
この映画がおすすめなひと
- 家族をテーマにしたヒューマンドラマが好きな方
- LGBTQ+を題材にした作品に興味がある方
- アネット・ベニング、ジュリアン・ムーア、マーク・ラファロの演技を堪能したい方
- 会話劇中心の映画が好きな方
- 派手な展開よりも人間関係を丁寧に描く作品を観たい方
評価
※評価は執筆時点のものです。
Filmarks:★★★☆☆(3.5 / 5.0)
IMDb:★★★★★★★☆☆☆(7.0 / 10)
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