Cinematelier ─ 映画のアトリエ

名作からコア作品まで、余韻を大切に綴る映画ノート

『ロスト・キング 500年越しの運命(The Lost King)』- 歴史は、信じ続けた一人の声から書き換わる

 

「歴史は勝者によって書かれる」とよく言われます。

私たちが学校で学んできた歴史も、実は誰かの視点から語られた物語なのかもしれません。

『ロスト・キング 500年越しの運命』は、500年以上もの間「暴君」「簒奪者」として語られてきたイングランド王リチャード3世の真実を、一人のごく普通の女性が追い求めた実話を映画化した作品です。

考古学映画でありながらミステリーのような面白さがあり、さらに「信じること」の力を描いた人間ドラマとしても胸を打ちます。

歴史を動かしたのは著名な学者ではなく、一人の女性の諦めない情熱だった――そんな事実そのものが、この作品最大の驚きです。

 

あらすじ(ネタバレなし)

エディンバラで暮らすフィリッパ・ラングレーは、長年真面目に働いてきたにもかかわらず、職場では若い同僚に昇進を奪われ、努力を正当に評価されない日々を送っていました。

さらに慢性疲労症候群(ME)という難病を抱えながら生活しており、周囲から病気への理解も十分には得られていません。

そんなある日、シェイクスピアの『リチャード三世』を観劇した彼女は、「本当にリチャード3世は歴史が語るような残虐な王だったのだろうか」と疑問を抱きます。

資料を読み漁り、市民団体「リチャード3世協会」に参加したフィリッパは、長年行方不明となっていた王の遺骨探しに没頭していきます。

やがて彼女は、王が眠る場所はレスター市内の一角にある駐車場ではないかという結論にたどり着きます。

しかし、素人である彼女の話を信じる者はほとんどいません。

大学や行政、資金不足という数々の壁に阻まれながらも、フィリッパは決して諦めませんでした。

これは、一人の女性が500年前に失われた王の居場所を見つけ出し、歴史そのものを書き換えていく奇跡の実話です。

 

感想

※ここからは作品の核心に触れる内容を含みます。

「事実は小説より奇なり」という言葉が、これほど似合う作品も珍しいと思います。

「一般の主婦が500年以上前の国王の遺骨を発見する。」

この一文だけでも映画のような話ですが、それが現実に起きた出来事だったということにまず驚かされました。

映画は歴史ミステリーというより、一人の女性が「誰も信じてくれない真実」を追い続ける物語として描かれています。

フィリッパは会社でも正当に評価されず、慢性疲労症候群という病気とも闘っています。

「病気だから無理だろう」「素人には分からない」

そんな周囲の偏見を受け続ける彼女は、身体的特徴だけで暴君と決めつけられてきたリチャード3世に強い共感を抱きます。

リチャード3世は背骨が湾曲していたことから、シェイクスピア作品では醜く邪悪な人物として描かれてきました。

しかし、それは、

政治的なプロパガンダだった可能性があります。

つまり、「障害があるから人格まで歪んでいた」という歴史そのものが偏見だったかもしれないのです。

だからこそ、自身も病気への偏見を受けてきたフィリッパは、リチャード3世を放っておけなかったのでしょう。

劇中でリチャード3世の幻が現れる演出も印象的でした。

幽霊というよりは、フィリッパ自身の良心や信念を映し出した存在のように描かれており、現実と幻想の境界を曖昧にすることで、この物語に温かみを与えています。

また、元夫ジョンとの関係も見どころでした。

最初は彼女の行動を理解できず距離が生まれていきますが、決して完全に見放すことはありません。

家族が少しずつ彼女を理解し、応援していく姿には安心感がありました。

そして何より腹立たしかったのは、レスター大学の態度です。

発掘前は素人扱いをしていたにもかかわらず、遺骨が発見されるや否や大学が主導権を握り、成果を独占していく姿勢には強い憤りを覚えました。

フィリッパの名前が発掘許可証から外されていた場面も衝撃的です。

歴史的快挙を成し遂げたにもかかわらず、功績を横取りされる構図は、映画冒頭で会社から正当に評価されなかった彼女の境遇と重なります。

それでも彼女は最後まで怒りだけに支配されません。

目的は名誉ではなく、「リチャード3世の名誉を取り戻すこと」だったからです。

500年以上、歴史の中で悪名だけを背負わされてきた王は、一人の女性の執念によってようやく正当な評価を受けることになります。

映画のラストでリチャード3世がフィリッパへ静かに感謝を伝え、

馬を走らせる場面は、本作でもっとも美しいシーンでした。

彼はようやく歴史から解放され、自らの人生を終えるべき場所へ帰っていったようにも見えます。

この映画は遺骨発掘の成功だけを描いた作品ではありません。

「歴史とは誰が語るのか。」

「真実は本当に一つなのか。」

そんな問いを私たちに投げかける、静かで力強い実話映画でした。

 

演技

サリー・ホーキンス(フィリッパ・ラングレー)

サリー・ホーキンスは派手な演技をする俳優ではありません。

しかし、表情や沈黙だけで心の揺れを表現できる稀有な俳優です。

周囲から理解されず、それでも信念だけは失わないフィリッパを繊細に演じ、本作を単なる実話映画ではなく深い人間ドラマへと昇華させています。

スティーヴ・クーガン(ジョン・ラングレー)

脚本にも参加しているスティーヴ・クーガンは、元夫として現実的な視点を持つ人物を自然体で演じています。

否定するだけでも全面的に応援するだけでもない絶妙な距離感が、この作品にリアリティを与えています。

ハリー・ロイド(リチャード3世)

実在の王でありながら、どこか幻想的な存在として登場するリチャード3世。

ハリー・ロイドは台詞以上に眼差しや立ち居振る舞いで品格を表現し、「暴君」という固定観念とは異なる人間味を感じさせました。

 

この映画がおすすめなひと

  • 実話を基にした感動作が好きな方
  • 『スポットライト 世紀のスクープ』『ジュリー&ジュリア』のような、信念を貫く人物を描いた作品が好きな方
  • イギリス史や歴史ミステリーに興味がある方
  • 考古学や発掘にロマンを感じる方
  • サリー・ホーキンスの繊細な演技を堪能したい方

評価

※評価は執筆時点のものです。

  • Filmarks:★★★★☆ 3.7 / 5.0
  • IMDb:★★★★☆☆☆☆☆☆ 6.7 / 10

 

視聴情報(サブスクリプション)

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